海洋環境保全の重要性と難しさを痛感

フランス、そしてベルギーは長い距離にわたる海岸部を抱えていることもあり、当ブログでは海や沿岸地域の環境問題について何回か取り上げてきた。特に昨夏、ブルターニュの海でアオサが大量発生したという報道(2011年7月27日付当ブログ)は、この地域での海洋汚染が根深い状況になっていることを改めて浮き彫りにしたように思う。そんな中、4月28、29日付のベルギー『ル・ソワール』紙は、海洋環境の保全と向上を目指す同国、そしてヨーロッパに対し、立ちはだかる諸々の課題について伝えている(Avec la mer du Nord pour trésor national. Le Soir, 2012.4.28-29, p.11.)。
北海に面するベルギーの海岸延長は約66キロ、領海と排他的経済水域を合わせた面積は3,454平方メートルに及ぶ。欧州議会による海洋戦略指令の採択に伴って、EU各加盟国はそれぞれ、海洋環境の維持を目標とする総合的政策を、2015年までに「海洋戦略」という形で決定し、EUに提出することが求められている。約3,500平方メートルという広さは、日本などのいわゆる海洋国家に比べれば微々たる数字ではあるが、それだけの海、さらに沿岸部の環境を整えていくという課題は、必要性こそ明確ではあっても、容易に達成可能と考えられるものではない。
まず大きなテーマとして浮上するのは、やはり水質の汚濁。リエージュ大学で海洋学を研究するクリシュティナ・ダス氏は、「北海は世界中で最も汚染されている海の一つであり、またベルギーはそのことに多くの責任を負っています」と指摘する。確かにこれまで、海へ直接、あるいは川を通じて流された工業廃水、生活排水は莫大であり、その中には後年まで汚染源となる物質が大量に含まれていた。今でも浚渫作業などの結果、海底に沈殿していた物質が新たに浮遊してくることもしばしばである。最近主に憂慮されているのは、ながく船体の塗料用等に使われてきたトリブチルスズ(TBT)、芳香族炭化水素ベンゼンの類)、さらに各種の難燃剤などであるが、かつて大量に放出されたPCBやDDTなどが生物濃縮されて、カモメの卵から見つかることもあるというから、深刻さは相当なものと言える。なおベルギーでは、上記のアオサの例に見られる富栄養化は、依然として時に見られはするものの全体としては減少傾向にあるという。
さて次に重大とみなされるのが、ごみ、あるいは海洋投棄物の問題である。北海への投棄物は年間で2万トンの規模に及び、その4分の3はプラスチック。浜辺に打ち上げられることもあれば、海鳥や哺乳類の体内で見つかることもある。発生源は船舶(漁船及び貨物船等)、さらに観光関係が中心らしいが、船舶関係者や観光客のモラルにもっぱら依拠する部分もあるだけに、地道な啓蒙活動等以外には、有効な対策も打ち出しにくいかもしれない。
一方、現代的な課題としては生物多様性が挙がっている。これは漁業のあり方に関連する部分が大きく、例えばトロール船による底引き網で、成熟前の稚魚も含めて根こそぎ漁獲を進めてしまうために、水産資源が毀損するという事情は以前から指摘されているところだ。この水域においては、シタビラメやカレイはまだ安泰のようだが、エイやタラについては種類によって保全が危険な状態になっており、早急な対応が求められている。
こうした課題を取り上げ、その解消なり改善の方向性を示す「海洋戦略」は、2015年までに決定、提出するだけではなくて、2020年までに一定の実績を挙げ、海の状態を(ヨーロッパ全体として)大幅に好転させることを目標に掲げることになる。現状を見ていると前途多難と言わざるを得ないが、海を地域の宝としてその環境を保全しつつ、暮らしの豊かさ、また経済活動の活発さも維持していく試みを、チャレンジとして敢えて引き受けることが必要になってくるのだろう。