南仏の気候温暖化と農牧業への影響

近年は猛暑の報道をしばしば見かけるフランス。パリではこれまで意外に少なかった「冷房完備」のホテルやレストランがようやく増えてきたが、暑過ぎる夏が度重なるようになってきたのがその主な要因だろう。ニースなど、これまでは年間を通じて安定した気候のリゾートというイメージだったところも、夏場は暑さが前面に出るような状況だ。大局で見ればこれは地球温暖化の影響が及んでいるということだろうが、5月2日付のスイス『ル・タン』紙は、研究者による気候分析によって、南フランス地域における最近の変化が改めて詳しく明らかになったと報じている(Le climat méditerranéen s’étend. Le Temps, 2012.5.2, p.14.)。
研究を行ったのは、国立農学研究所(INRA)と機能・進化生態学センター(CEFE)に所属する学者たちのグループ。フランス南部のポー(アキテーヌ地域圏)、リヨン、マルセイユの各都市を結ぶ三角形内にある14の気象観測所でこれまで計測されてきたデータを詳細に検討した。その結果、温暖化の進行状況や降水量の変化などが、より体系的に明確にされてきている。
具体的に見ていくと、この地域では、1901年から1945年までの間、10年に0.1度というペースで気温が上昇した。1945年から1979年にかけては、逆に0.15度気温が下がる状況すら生じている。急激な温暖化が始まるのはこれ以後で、2009年までの30年間に1.5度という大幅な上昇が起きている。またこの時期の高温化は、冬期については0.7ないし0.8度程度なのに対し、夏期はなんと2.4度に及んでおり、季節による違いが顕著である。
一方、降水量については調査対象の期間中に大きな変化は見られない。しかし、温暖化に伴って水分の蒸発量が増えていることから、湿度は全域的に相当減少している。こうした変動の結果、いわゆる「地中海性気候」に属する地域が以前より北方及び北西方に向けて100キロほど拡大し、これまでは含まれなかったトゥールーズ、アルビ、モンテリマールといった都市が、新たに「亜湿潤系地中海性気候」の土地になったと考えられる。また、特に海辺に近い地域は、乾燥度の強い「ステップ系地中海性気候」と位置付けられる状況になっている。
今回の研究は、INRAが中心になっていることからも分かるように、農牧業への影響やその対策についても検討を加えている。牧畜に関して言えば、対象地域はかつてほとんど牧草の生育不振に見舞われることはなく(あっても10年に1回程度)、政府は不作の年に限って補助金等の施策を講じればよかった。しかし21世紀に入ると、過度の乾燥を主な要因として10年間に4回も牧草不足が発生しており、政府による対応策の実施は(費用がかさむことから)非常に困難となっている。研究チームの一員であるフランソワ・ルリエーヴル氏は、「(こうした点について)生産者を納得させるのは容易なことではありません」と顔を曇らせる。
ルリエーヴル氏の説明によれば、上記の気候変動は南フランスの植生全般に大きな影響を与えつつあり、それは今後も続くと考えられるが、難しいのは植物の種類などによって影響が一様ではないこと。乾燥の進行に伴ってこれまでこの地域で生えていた植物が北に移動するという傾向は大方生じるところだが、その速度は種によって異なる(例えばオークの木はドングリで繁殖するため、長距離を移動していくには相当の年数がかかる)。毎年の生育サイクルという点については、ブドウなど多年生の植物については収穫時期が20日程度早まることが想定されるが、穀物など一年ものでは収穫日が変わることはそれほど考えられない。
要するにどうやら、南フランスで確実に進んでいる気候変動が、農牧業に(主として悪い方の)影響をもたらしかねないことは確かなようだ。牧畜などは少なくともこれまでとやり方を変えていかねばならない。ただルリエーヴル氏は、「幸いなことに、変化はそれほど急速なものではありません。まだ変化に適応するための時間はあります。飼料を確保するために、潅漑で水を供給するとか、かつての移動牧畜(夏期は高地の牧場を使い、季節によって放牧する場所を変える方法)の考え方を取り入れるとか、飼料のストックを冬だけでなく夏にも準備するとか、いろいろな可能性を検討すべきではないでしょうか」と説明して、落ち着いた、しかし確実な対応が必要との立場をとっている。ストップ温暖化と世界中で言われていても、実際にこの地域で温暖化が近い将来に止まるという保証は全くないだろうが、まずは足元から農牧業経営の手法を考え、それぞれの生産者が各自の考える形でやり方で変えていく、そんな展開が望ましいと思われる。