領事サービスの再編めぐり議論

在外公館(大使館、総領事館)の設置・配置は、各国にとって今や悩ましい課題。原則論で言えば、外交関係が密な国(あるいは将来的に密な外交関係を築く必要がある国)には大使館を、また在外市民が多く住む都市には総領事館をもれなく設置していけば、外交政策としては充実するだろうけれど、公館の維持には費用も相当かかるだけに財政状況との兼ね合いをどうしても考慮せざるを得ない。一番現実的なのはスクラップ・アンド・ビルドということになるだろう(日本の在外公館も一定程度のスクラップを余儀なくされているはず)が、4月21日付の『ル・タン』紙によれば、スイスでは一部で疑問視されるほどに、この分野での徹底したリストラ策に乗り出している(La réforme du réseau consulaire de Micheline Calmy-Rey critiquée.)。
2003年から2011年まで外務大臣の職にあったミシュリーヌ・カルミー−レイ氏(2007年以降は大統領も兼ねた)が推進してきた組織改革の一つの目玉が、ヨーロッパをはじめ世界各地での「領事業務センター」の設置。各国にある大使館や総領事館で分散的に実施されていた領事サービスを(場合によっては国境を越える形で)集約することとし、例えばベネルクス地域ではハーグ(オランダ)にセンターを置く代わり、在ベルギー、在ルクセンブルクの大使館での領事業務は行わないこととした。2011年にはハーグのほか、ブカレストプレトリア南アフリカ)、サント・ドミンゴドミニカ共和国)など計8か所に領事業務センターを置き、一方で周辺の国々の大使館における領事業務の停止、また総領事館の閉鎖などを次々と行っている。さらに今年も同様の動きが続く予定とのことだ(東南アジアや南米等、計4か所の領事業務センター新設が決まっている)。
これに対し異議を申し立てたのが、連邦議会財政問題特別委員会。昨年の年間報告書でこの点を取り上げ、在外国民の利便性を損ねているのではと疑問を投げかけた。またこうした疑問、批判は在外スイス人連合(OSE)という組織からも出されており、OSE傘下の在外スイス人評議会は昨年4月、「領事業務集約」に懸念を表明する決議を採択している。特別委員会の委員長である全州院(上院)議員、ウルス・シュヴァラー氏は、「我々は顧客(在外市民)に対するサービスの質について、また領事サービスに対するアクセシビリティについて、大いに疑念を持つところです」とコメントしている。
こうした批判に対し、スイス外務省は、センターへの業務集中によりこれまでと比べて著しく領事窓口が遠くなる在外スイス国民が出ることを承知しているとしつつも、その割合は外国居住者全体(約70万人)の4%に過ぎず、他方で(浮いた経費を利用して)ドーハやバンガロールへの在外公館設置などを実現できたと主張している。また、近年は特にインターネット等の電子的手段、あるいは郵送によって領事サービスを充分に提供できる状況が整いつつあること、この5月1日からは24時間、日曜日も通じる領事サービスホットラインを開設することなども併せて説明している。ちなみに、引き続き窓口によるサービス提供が必須なIC旅券用のバイオメトリックデータ(顔写真・指紋)の授受については、特例的に、上記のセンターに加えてその他の大使館等でもこれまで通り対応することになるらしい。
今年初めに前任のカルミー−レイ氏から業務を引き継いだディディエ・ブルクハルター新外務大臣も、これまでと同様に、在外公館の徹底したスクラップ・アンド・ビルド路線を引き続き推し進める意向とされる。しかしシュヴァラー委員長は、年内にも本件についてブルクハルター氏に申し入れをする意向とも言われ、今後の動きは予断を許さない。私見では、在外公館の改廃の動き自体は避けられないと思われるし、スイスの試みも注目すべき点を持っていると思うが、その評価にはまだしばらくの時間がかかるのではないだろうか。