一般医の人材不足に対処する施策のあり方

市民に密着し、主に患者の初期治療にあたる「一般医」、そのベルギーでの動向については、以前にもこのブログで紹介した。その際は、彼らがあまりの忙しさなどによりバーンアウトに陥る現象が多いことを取り上げた(2011年11月16日付)が、今日の話題もその延長線上にある。5月3日付の『ル・ソワール』紙は、一般医の人数がそもそも不足しているのではないか、何らかの対応をすべきではという点について、2名の関係者による論評を掲載している(Y a-t-il vraiment pénurie de médecins généralistes? Le Soir, 2012.5.3, p.13.)。
連邦厚生・食品安全・環境省によれば、ベルギーには現在、1万4,000人ないし1万5,000人の一般医が職務に従事している(ベルギー一般医連合(GBO)の調べでは1万8,000人とも)。ただどうやら、ここでカウントされている医者のうち、きちんと一般医としての認可を受け、その仕事を常時している者は1万人かそれ以下に過ぎないらしい。それ以外のみなし「一般医」には、他の資格で医師として認可された上でパートタイムにより(つまり、一般医には実質的に義務付けられている夜間や休日の宿直勤務はしないという形で)従事していたり、さらには外国(といってもEU内ではあろうが)での医師免許に基づいて働いていたりする人が相当数混じっている。今回記者のインタビューを受けた2人はいずれも、一般医の「実数」はともかく、上記のグレーゾーンを除外した場合に、その不足が非常に際立ってくると考える点で一致している。
なかでも、リエージュ大学教授(公衆衛生医学専攻)で連邦ヘルスケア情報センター(KCE)の所長でもあるピエール・ジル氏は、現時点に比べて将来はさらに一般医が不足するという可能性について指摘している。その要因は主に2つ。引退する(老齢の)医者に比べて新たに医者になる人の数が少ないこと、そして、新規の医者の70%が女性であるため、全体として勤務形態が変わってくるのではないかということである。つまり、よほど綿密な施策を講じないと、今よりも事態はますます深刻になってくるわけだ。
ところで、今年3月1日には、一般医が認可されるに当たって必要となる条件をより厳格化する内容の厚生省令が施行された。宿直勤務(夜間・休日)を行うこと、リカレント研修を常に受講することなどの条件を定めたこの省令それ自体については、ジル氏も、またGBO会長であるフィリップ・ファンデルメーレン氏も基本的に賛成。ただ両氏とも、省令の内容を全面適用するまでに5年の猶予期間を設けるという「経過措置」の重要性も強調している。特にファンデルメーレン氏が述べているように、5年後の省令本格実施に際しては、上記でいうグレーゾーンに入る医者たちはこのままいくと一般医としての勤務ができなくなるわけで、その分医師不足がより重大になることは容易に予想できる。省令によって医師の資質や行動がしっかりすることは公益に適うだろうが、他方で「医師がいなくなる」という現象を招くのは厚生省としても本意ではなかろう。
そこで、ジル氏、ファンデルメーレン氏が(多少のニュアンスの違いこそあれ)共通に指摘するのが、「一般医」ではないがそれに類する新たな医師カテゴリー創設の必要性。たとえば宿直勤務は行えなくても、日中の時間帯には診療できるといった医師たちをうまく医療システムに取り込む(手放さないでおく)ことは、必要な医療人材を確保するために不可欠とも言えるのではないか。
もう一つ、これも2人が等しく指摘する課題は、新たに医師になる若者たちが、時間拘束の厳しい宿直勤務などを忌避するからか、一般医よりは各種の専門医を目指す傾向が強いこと。一般的に医学教育の初期の段階で、一般医40%、専門医60%の割合で育成されるよう配分がなされているという想定があるが、現実にはわずか20%しか一般医向けのコースに進んでいない状況もあるようだ。それぞれの医者の卵たちのモチベーションに関わる問題であるだけに、一筋縄ではいかないとは思うけれど、志高く、街や村の日常の医療活動に携わる医者を目標にする人々がもっと増えてくれればと思うし、そのための制度的なサポートは惜しむべきではないだろう。