パリ13区、学生街の整備目指し着々?

パリ市内も、セーヌ河沿いを歩いてオステルリッツ駅を過ぎると、もう出外れた雰囲気を醸し出していた時期が長かったはずだが、それも過去のこととなりつつあるのか。フランス国立図書館BNF)の南側に大学が進出し、この地帯を拠点とする学生の数は確実に増えてきている。そしてこれらの施設を含むパリ13区もいよいよ、地域全体を文教地区として活性化するための取り組みに乗り出したところ。5月22日付の『ル・パリジャン』紙パリ市内版は、徐々に変貌を遂げつつあるこの地域の現況を、記者の目で冷静にリポートしている(Le nouveau quartier latin encore trop neuf. Le Parisien – Le Journal de Paris, 2012.5.22, p.1.)。
BNFがこの地に新館をオープンしたのは90年代の末。当初は最寄りの駅から歩いて10分以上もかかる「ひなびた」場所という印象だったが、地下鉄の駅や新路線(都心部から直通運行)の開業、さらにフランス国鉄の駅もオープンし、周りに店も多少は増えてずいぶんと整ってきた印象がある。一方、パリ第7大学(ディドロ大学)は2007年に、かつて製粉工場「グラン・ムーラン」だった土地を含む広大な敷地に新キャンパスを開き、現在約2万人がこの地で学んでいる。第7大学は今秋に新たな建物の竣工にこぎつけるとのことで、まだ規模の拡張が見込まれる由。さらにパリ第1大学(パンテオンソルボンヌ大学)のトルビアック・センター(いわゆる文科系の前期学生が修学)に通う者たち、あるいは周辺の研究施設の研究者なども含めると、2014年には約5万人規模の「学生街」が出現することになる予定なのだ。
この勢いを捉えようと、パリ13区をはじめ関係機関は5月21日から6月3日まで「新カルチェラタンウィーク」と銘打って、オープンキャンパスや各種イベントなどを集中的に実施している。しかし、フランス通りにあるカフェ・デュポンに長居して、ノートに首っ引きで勉強するエレオノール(環境経営専攻の1年生)は、この話題に苦笑い。「周りにガラスのビルがいっぱいあって、ここは(カルチェラタンでなく)デファンスなんじゃないかと思うわ。雰囲気が足りないのよ。オスマン時代の建物がないと、パリにいるって感じがしないのよね」と率直な感想を述べる。でも彼女らがこの地域での学生ライフに不便を感じているかというと、そうでもないらしい。「ソルボンヌでは何回も道に迷ったけど、ここはそんなことない。学部のロケーションは機能的で、広々していて勉強にはいいわ」とも言って、それなりに快適に過ごしている様子もうかがわれる。
また、学生を主なターゲットにする施設も次々にできつつある。BNFそばの大規模シネコンMK2は、5ユーロ以下の特別料金を設定して若者たちを集客中。第7大学近くには学術書も販売する書店ジベール・ジョゼフもあり、わざわざサン・ミシェル界隈に出なくても必要な本が買えるようになっている(同店は2007年の開店以来売上げが70%増だとか)。現在の一番の課題は、周辺の住宅建設が追いついていないこと。学生向けに整備予定の1,500戸のうち、既に完成しているのは230戸に過ぎない。カフェ・デュポンのマスターは、日用品を揃えた商店などがまだできていないことなどもあって、この地域が本格的に発展するにはまだ4、5年はかかるだろうと予測する。それまではカフェも書店も、日曜日やバカンス期には閑古鳥が鳴くことを覚悟し続けなければならないようだ。
そういえば、エレオノールと一緒にいたマネは、「ここのコーヒーは2.60ユーロもするのよ。全然学生向けの値段じゃないわ!」と憤慨していた。「新カルチェラタン」を名乗りたいのなら、まずはとっかかりに、学生が納得するコーヒー一杯の価格から考え直す必要もあるのかもしれない。