ブリュッセルのタクシー、ようやくカード決済本格導入へ

クレジットカードの利用に関し、日本のタクシーは(個人タクシーも含め)最近だいぶ整備されてきた印象があったため、はるかにカード使用普及度が高いはずの(と思っていた)ブリュッセルで、これまでタクシーでの支払いにほとんどカードが使えず、現金払いのみだったという事実には改めて驚いた。小銭は別として、特に高額紙幣は忌避されていたはずだが。というわけで、6月7日付のベルギー『ラ・キャピタル』紙は、現在急ピッチで対応が進みつつある首都のタクシー内でのクレジットカード事情について報じている(Payer par carte dans les taxis. La Capitale, 2012.6.7, p.5.)。
ブリュッセル市内を走るタクシーは約1,250台で、その大半が6つの会社に帰属するという集中的な構造になっている。そしてこのたび、最大手の会社である「タクシー・ヴェール」で、車内でカード決済を可能にするための短期集中的な取り組みが始まった。同社のオリヴィエ・ペートゥル営業部長によれば、5月ぐらいから100台ほどの車両に、パケットデータ通信が可能な小端末を装備し、(即時決済を行う)デビットカード、そしてVISA又はマスターカードによる決済を可能にしてきている。タクシー・ヴェールが所有する車両は500台強だが、ペートゥル部長によれば、会社として今後数か月のうちに全車両への設置を終えたいとの意向であるらしい。そして、最大企業のこうした動きを受けて、その他の会社、例えば「タクシー・ブルー」等においても、ほぼ同様のシステムを構築すべく鋭意検討を進めていると言われる。こうなると首都内の車両での決済端末装備率は、今後少なくとも1年ぐらいの間に、急激に高まることになりそうだ。
もっとも、これまでタクシーでカード払いを可能にするための仕組みが全く準備されなかったわけではない。ただその仕組みが非常に不安定なものだったため、まともに普及しなかったというのが実状である。具体的には、車内でカードを差し込んでデータを取り込むための設備は作られていたのだが、その場で決済過程に進むことができず、帰社した後でそのデータを基にチケットを打ち出し、乗車料金を登録するというやり方が取られていた。この方法では単に手間がかかるだけでなく、カード使用者が決済に必要な金額を口座等に確保しているかが使用時に全く確認できず、結果として「ただ乗り」を可能にしてしまうといった致命的な欠陥があり、それでは普及などするはずがない。今回はもちろん車内からカード会社等と通信が取れる形になっている(当たり前だが)ので、上記のような心配は全く生じない。
運転手の方ではカード導入の急な動きに戸惑いもあり、必ずしも歓迎ということではないようで、ある者は「乗車料金が安い時に問題がありそうです。もし(システム)使用料を払わなければならないようなら、カードを受け付けない運転手も出てくるかもしれません」と打ち明ける。ただそれでも会社側としては、乗客の利便性が向上し、タクシーを利用する人が今より増えることに期待したいということだろう。当方も潜在的な利用者の一員として、観光時にタクシーにのって支払いに困らないようになれば有り難いことだと思う。