企業に訊くコーヒー販売の新トレンド

インスタントからドリップ式、そしてまた自家焙煎豆専門店の隆盛と、日本人が家庭で飲むコーヒーも、この数十年の間に変化し、多様化してきた。もちろん「朝はカフェオレとクロワッサンから」がある種の伝統として定着していて、実際1人1日平均2.2杯のコーヒーを飲むと言われる彼の地フランスでは、日頃接する飲み物としてコーヒーへの人々の注目度は高く、それだけにより様々な動きが見られるようだ。6月11日付の『ル・パリジャン』紙経済特集版では、コーヒーを製造販売する企業の関係者に詳しくインタビューし、家庭用コーヒー販売の現状やその特徴などを明らかにしている(≪Le marché français du café est stratégique pour nous≫. Le Parisien Économie, 2012.6.11, p.4.)。
今回インタビューを受けているのは、シカゴに本拠を置く世界的食品企業グループ、クラフトフーズのヨーロッパ子会社で、コーヒー部門長を務めるジャック・ロシオ氏。フランスにおいてクラフトフーズは、コーヒー以外にチョコレート(ミルカ、コート・ドール等)やキャラメルバー(キャランバール)、ヌガー(トブルローヌ)、クラッカー(TUC)など幅広く商品ラインナップを展開しており、統計によるとフランス人は平均で18回同社の製品を買い、85ユーロを支払っていることになるそうだ。コーヒーは「カルト・ノワール」のブランド名で販売していて、各種商品を合わせた総売り上げはここ5年間、平均5.5%の割合で成長を続けており、粉末インスタントコーヒーでは約21%の市場シェアを確保している。
ロシオ氏はまず、フランス人がコーヒーを飲む習慣について、近年大きな変化が起きていると指摘する。キーワードは「個人化」。つい最近までは上記の伝統に見られるように、コーヒーには「朝一番に家族で飲んで、目覚めのエネルギーを充填するためのもの」というイメージが色濃く、その分「みんなで飲む」といった感じが強かったと言われる(食後の一杯というのも同じように考えられるだろう)。これに対し、今のコーヒーの消費傾向は、「ほっと一息つきたい時に(←似たようなコピーが日本のCMにあったが)、好きなコーヒーをゆっくり味わう」という意識を軸としたものに推移しつつある。もちろん朝のカフェオレがなくなったわけではないが、一方で個人的な楽しみとしてコーヒーを楽しむライフスタイルが急速に伸びて来ているということは容易に理解できるだろう(その意味では日本も同じ路線上にあるとも推測できるかもしれない)。
こうした変化に伴い、現在トレンドとして定着しているのが、カプセルを挿入することで多種類の飲み物を手軽に作れるドリンクマシーンを家庭に備えること。既に47%の世帯にこうした機器が入っているそうで、クラフトフーズも自ら「タシモ」というマシーンを販売すると共に、この機器に合った各種カプセル(コーヒー、紅茶、チョコレートドリンクなど)を用意して、市場の確保に注力している。ただ、これまでのフィルターを通す形のコーヒーメーカーがすたれてしまったというわけでは決してなく、22%の世帯では両方の機器を使い分け、朝は家族でフィルター式、午後はそれぞれが好きなものをカプセルでというような使い方をしているらしい。従って、ロシオ氏の考える今後の販売戦略としては、従来のコーヒー豆やそれを挽いた粉と、急速に普及するカプセル、両面を睨んでの展開にならざるを得ないと思われる。さらに彼はインスタントコーヒーの品質向上にも言及しており、「手軽にエスプレッソの風味を堪能」できるような製品を、何か月もかけて研究開発したと自信ありげに語っている。
一方で、コーヒー豆の価格上昇は、ロシオ氏に限らずコーヒー販売に携わる関係者全てを憂慮させるところであり、それを商品の販売価格に転嫁すれば消費の抑制につながってしまうという難しさはいかんともしがたい。コーヒーの粉は昨年、平均で13%値上がりしたそうだが、彼によれば、主要産地であるブラジルでの不作、新興諸国(インド、中国など)での消費拡大、さらに商品市場における投機などが重なり、原材料としてのコーヒーの価格はこの間2倍ほどにも上昇しているという。最近3か月では価格はやや下がってきているようだが、今後の動きは予断を許さず、引き続き悩みの種は尽きないといえそうだ。