流行のパステルカラーをビジネスで活かすには?

夏場にクールビズが推奨され、「どぶねずみ色」と揶揄されてきた日本紳士のビジネス服の世界も変革を迫られる状況になってきた。一方、ファッション先進地域として男性のお洒落度も高いとみられるヨーロッパ、とりわけフランス。なんと今年はパステルカラーがはやりだというのだが、果たしてビジネスシーンにこの流行を取り入れられるのか。6月1日付のスイス『ル・タン』紙は、困難な課題に挑む(?)男性たち、また彼らへのアドバイスなどについてレポートしている(Pastels à moderer. Le Temps, 2012.6.1, p.28.)。
本記事によれば、フランスでもスイスでも、今年は店頭にパステルカラーが溢れており、それはいわゆるファストファッションH&Mなど)、ブランド(プラダ、エルメネジルド・ゼニアなど)などの違いを問わず、また著名なメンズファッション雑誌(『GQ USA』、『ファンタスティック・マン』など)のお墨付きであるという。もちろん、ティーンエイジャーがピンク色のジーンズで闊歩したり、ヴァカンスに行くのに淡いベージュ色のシャツを着ることには何の問題もない。しかし、勤務中の銀行員、あるいは公務を遂行する政治家が、その服装にパステルカラーを取り入れるというのは、うまくいけばセンスアップもあり得るとは言え、リスクも非常に高いと考えざるをえない。ヨーロッパだから特に緩やかとか寛大というものではないのだ。
その意味で最近とりわけ揶揄されているのが、フランスのマニュエル・ヴァルス新内務大臣の服装。どうやら、ピンクや水色のネクタイを多用しているらしいのだが、ネット上で「凄まじい色使い」と酷評され、その職務自体よりこちらの方が注目されていると言われるそうだから恐ろしい。本記事でも彼のファッションについては、「権力を行使する者にとって、信頼を損ねるリスクを冒さずに個性を際立たせようとすることは難しい」、さらに「ひと山いくらで買ってきた結婚衣装を着回ししているような印象を与える」と痛烈な評価が飛んでいる。それでは、かの内相のように馬鹿にされず、それでも仕事の場でパステルカラーにトライしたいなら、いったいどうすればよいのか?
『ル・タン』紙は3人の識者にインタビューし、流行色の取り入れ方について訊ねている。もっとも積極的、ある意味では大雑把な回答をしているのが、ニューヨークでインディペンデント雑誌『ペーパー』の編集長をしているミッキー・ブロードマン氏。「個人的には、(パステルカラーでも)同じ色調でコーディネートするのが好みです」と語り、普通の人は地味な色ながら少しパステル要素を取り入れた服装から始めたら良いのではないかとしつつ、「ネクタイとシャツのコンビネーションでいくのもアリです」とも推奨している。「男性の大半は色使いを怖がっているのでは」と考えている人らしい発言だが、やはり米国在住だけにそれだけ周囲も自由な選択を許す環境があるのではとも思わせる。
一方、かなり保守的、もしくは慎重な意見もある。ジュネーブでビジネススタイルや国際儀礼に関するコンサル企業「プレステージ・ビジネス・サービス」を営むコリンヌ・ランパン氏は、「現代においてドレスコードが緩和されているという考え方は間違い」という前提から入る。服装の要件が厳しいシーンで、流行色であるパステルカラーを着用していけば、(ドレスコードからいい意味ではみ出しているということで)うまくすれば「時代感覚の鋭い人」というイメージを与えることができるかもしれない。しかしとにかく、過剰、または不格好な色使いは絶対に避けなければならない。
ランパン氏は具体的な示唆も与えていて、例えば経営者にとって、パステルのネクタイは可だが、シャツは断じて白であるべき。ポケットチーフの色を淡くしてみるというのはいいが、ネクタイと両方になると「やり過ぎ」との判断になる。さらに、通勤時にパステルのスカーフを首に巻き、出社したら外すというようにすれば、オンとオフをうまく切り替えているという印象を作り出せるとのこと。靴下やアクセサリーにそうした色を用いるのは全く不適当。シチュエーションによって着るべき服装が違ってくるのは当然で、例えば年配の人や中東出身のビジネスパーソンと会うような時は、パステルは完全に排除しなければならない(通常の保守的なスタイルで臨むのが妥当)という。
ジュネーブに本拠を置くスイスの代表的衣料専門店、ボン・ジェニー・グリーデルのセールスマネージャー、マウロ・デ・ルカ氏もランパン氏に近い見解を取るが、より鮮明にしているのは「パステルカラーの適・不適、またその着用の仕方は(それぞれの男性が有する)諸条件による」という考え方。まあこれは言われるまでもないことで、高齢の人がいきなりパステルを着るようになったら、それまでのイメージが崩れてしまいかねないし、恰幅のよい男性が斬新な服装をすると、シルエットが実体以上に重苦しくなるおそれがある。また肌の色が濃い目の人のパステルカラーは、意に反して外見上の生彩を欠くように映りかねないとも言われる。なおデ・ルカ氏は、実際上のアドバイスとして、パステルカラーと黒とのコントラストは避けるべきとし、むしろ「ぼかし」のような形で若干の対比を出すやり方が推奨できるとしている。
こうして見て来ると、少なくとも(この新聞記事が読者対象としている)スイスにおいては、ビジネス服の色彩については引き続き保守的な姿勢を取った方が手堅いという評価の方が優勢な印象を受ける。ヨーロッパだからといって日本より派手な色合いが絶対的に許容されるというわけではないのは、当たり前とはいえど、気構えとしては確認しておいてよいのかもしれない。