パリ市内の住居購入は超困難事に

パリをはじめとするフランスの大都市の不動産価格は、このところ何年も高騰傾向を続けており、結果として例えばパリ市内で普通の人々が持ち家(自己所有のアパルトマン)を手に入れることは、もはや高嶺の花といった状態にあると言われる。それでは直近の情勢ははたしてどうか。フリーペーパー『ヴァン・ミニュート』紙パリ市内版は、企業レポートを基に、現時点での個人の住宅購入をめぐる状況についてまとめている(Acheter à Paris est de plus en plus compliqué. 20 Minutes – Édition de Paris, 2012.6.13, p.2.)。
当記事が今回参考にしたのは、不動産仲介業のメイユールトー社が、同社のサイトにアクセスした人を対象に調査し12日に公表した、住居取得事情に関するミニレポート。それによれば、収入の3分の1を住宅ローン(20年返済)に充てるものと仮定したときに、パリ市内の住宅購入者が入手可能な住居の面積は、2001年時点の51平方メートルから29平方メートルに急落している。1平方メートル当たりの平均価格は8,260ユーロ。これについてメイユールトー社のエルヴェ・アット社長は、「昨年から今年にかけて情勢は安定しており、また今年末に向けて若干好転する可能性もあります」と述べて、これまではともかく近年の動向は落ち着いていると解説する。確かに住宅ローン金利が20年もので3.92%と歴史的な低利率になっている(註:日本とは比べようもないがこれで低金利なのである)など、消費者側に有利な条件もあるが、基本的な価格高が大きく変わらない限りは、情勢に顕著な変化が生じるとは期待できない。
レポートでは、パリ市内、郊外を含めたパリ大都市圏(イル−ドゥ−フランス地域圏)、そして全国の3種に分けて、住宅取得者の代表的なプロフィールを明らかにしている。それによると、家を買う年齢の平均はどこでもほとんど変わらない(約37歳)が、購入所要額は首都で約45万ユーロなのに対し、大都市圏で約35万ユーロ、全国では約25万ユーロ。購入時に用意する頭金の額で見ても、パリ市内は約17万6,000ユーロで、後2者(それぞれ11万5,000ユーロ、6万9,000ユーロ)を大きく引き離している。「花の都」に(もちろん一戸建てではないにせよ)自己所有住居を持つということは、かくも飛び抜けて難しいことなのだ。
最近18区で3部屋のアパルトマンを手に入れたというオーレリアンは、「家を買えたのはとにかく遺産のおかげです」と率直に話す。普通のサラリーマンよりはるかに好条件に立っていないかぎり、市内の物件探しは困難を極める。そこで最近の流行はパリ以外の場所での住宅取得。アット社長によれば、パリ市内在住で同市内に家を買い求めた割合は半数以下にとどまり、約33%が大都市圏内、さらに約20%はそれ以外の場所で入手している。この場合、もちろんかなりの割合で、多少の時間をかけつつ市内に通勤することを想定していると見られるが、一方で明らかに投資目的のものも含まれている。南仏マルセイユの東南東約50キロにある港町、トゥーロン市内にストゥディオを購入したエミリーは、「(今はパリ市内の賃貸住宅に住んでいるが)自分がメインで住むための家を買うほどの資金はありませんでした。(購入したストゥディオの)家賃でローンの大半がカバーできると思うので、これからは(貯蓄などによって)資産づくりに励みます」と語る。かなり迂遠な投資をしているようにも思えるが、せめて損を出さないようにと願うばかり。
政権交代の影響などによって、今後は政令による家賃への上限付与(各種条件あり)や、既存の家主が価格を柔軟に引き下げて住宅売却に踏み切れるようにするための措置等が検討される方向とされている。ただ、仮にそうした方策が取られたとして、それが多少なりとも住宅入手難の緩和に役立つか判断するには、まだ相当の時間がかかることになるだろう。