テレビCM効果に広告主が疑念表明

ヨーロッパの多くの国で日本との違いを感じる点の一つは、公共放送であるはずのテレビのチャンネルでもコマーシャルが流れること。このことの適否や是非についてたまに議論が再燃することもあるが(最近のフランスなど)、基本的には民間放送と公共放送とを問わず、(比重の違いはあれど)CMが放送されていると考えてよいだろう。そうなると理論的には、放送界に対するスポンサー側からの依頼、要望、要求等は、全般的に高まってくると考えられるのではないか。6月14日付のベルギー『ラヴニール』紙は、スポンサーの団体が発表したコマーシャルと放送の現状に関する意見の内容、またその含意等について報じている(Pour un débat sur la publicité à la TV. L’Avenir, 2012.6.14, p.15.)。
ベルギーの場合(ここでは例としてフランス語圏を取り上げる)、公共放送(RTBF)の予算の4分の3はフランス語共同体政府からの補助金、4分の1は広告料その他の収入から成り立っており、居住民が支払うテレビ保有税がこの補助金の源泉となっている。一方商業放送の場合はもちろん広告収入が予算の大部分を占めることになる。こうした状況を背景にして、ベルギー広告主連盟(UBA)が明らかにした報告書は、現在流れている広告の効果に対して厳しく疑問を投げかける内容となっている。
UBAの指摘の第一は、近年ますます定着している視聴者の録画習慣が広告に与える影響。2012年第1四半期の調査では、ワロン地域圏の居住者の5.1%が、まず録画をしてから番組を見ていると言われており、またその割合は近年急速に増えて来ている。UBAが問題にするのは当然ながら、録画番組を流すときにはだいたいCMを早送りしてしまうということで、実際に75%がCMをスキップするという調査結果も出ているのだという。そうなると広告主としては、巨額の費用をかけてコマーシャルを流す効果が減退すると考えざるを得なくなる。
もう一つのちょっと意外な主張は、「自局の番組宣伝が多過ぎる」というもの。フランスでもベルギーでも、本当のCMの前後等に当夜の番組予告や新番組の告知などを流すことは多いと思うが、UBAはこれがとにかく長過ぎて、結果的に視聴者を他のチャンネルに移動させてしまっている(いわゆるザッピング)のではないかと憂慮している。この点については局側から、宣伝によって視聴率を向上させ、そのことで広告効果を拡大しているとか、あるいはスポンサーのCMが空いたところを番宣で埋めている(日本などはこういうケースが多々あるだろう)といった反論も出て当然ではあろう。実際RTBFの広報担当者は、公共放送としてCM枠に関しては厳しく規制されており、またここ数年、番組宣伝の量が増加したという事実もないと説明している。ただ少なくとも広告主たちが、番宣も含めるとコマーシャルの時間がとても長く感じられると評価しているのは確かなようだ。
報告書は、「もし何らの対処もなされなければ、解決策は一つしかない。視聴者自身に(全ての)費用を(税なり受信料なりで)支払ってもらうということだ」とまで言及する。つまり、公共放送にせよ商業放送にせよ、一切のテレビ広告から手を引くという警告である。もちろんUBAもこれが極端な主張であることは重々理解しており、同連盟のメディア・マネージャー、ナタリー・ウブル氏は、「各放送局、各チャンネルが新たな(CMの)コンセプトを採用すべきだと思います。我々の目的は全ての関係者の協議により、各局が広告主の期待に今まで以上に応えるようにし、またスポンサー自体が多様な視聴者層について理解して、ターゲットを設定する方向で進むということです」と、当面の現実的な、そして抽象的な対応策について語っている。
UBAの問題提起は、広告料の費用対効果が高くないのではないかという経営上切実な関心から発していることが理解できるものの、上記の指摘内容は、多かれ少なかれ、どの国のテレビCMでも生じていることではないか。録画視聴やザッピングは日本でもおなじみの普通の現象であり、その対処として近年は例えば番組の山場をわざとCM後に持ってくるといった編集方法も取られているわけだが、こうした演出には視聴者側からの批判も頻出しており、局もスポンサーも方策をいまだに模索しているというのが現状と思う。放送局を脅かすような挑発的な批判を投げてみても、効果が明確な対応が得られる見通しもなく、ただテレビコマーシャルの本質的な限界を浮き彫りにしているに過ぎない。だからこそ、UBAとしても何ら具体的な対策を出すことができないのではないだろうか。