新政権、コールセンター国外流出に待った?

コールセンターの外国流出(オフショアリング)に起因するフランスの雇用減少問題については、1年半ほど前に当ブログでも取り上げた(2010年11月20日付)が、やはりそれ以後も問題は解決しないどころか、より深刻化しているようだ。歴代の担当大臣もこの事態を憂慮し、それぞれ関係者への働きかけなどを行っているにもかかわらず、何らかの対策が功を奏するというには程遠い状態が続いている。6月13日付の経済紙『レゼコー』では、オランド新政権におけるこの問題への対応ぶりと、それでも止まないオフショアリング問題の実状につき、テレコム産業を事例にとって報告している(Montebourg veut rapatrier en France les centres d’appels des opérateurs. Les Echos, 2012.6.13, p.23.)。
6月初旬にアルノー・モントブール生産力再建相とフルール・ペルラン デジタル問題担当相が相次いで会談の場を持ったのは、ステファンヌ・リシャール(フランス・テレコム社長)、ジャン−ベルナール・レヴィ(ヴィヴァンディ社長)、オリヴィエ・ルッサ(ブイグ社専務)、マクシム・ロンバルディーニ(イリアド社長)といった、国を代表するテレコム企業のトップたち。各社はそれぞれ、オランジュ、SFR、ブイグ・テレコム、フリー・モバイルという携帯電話子会社(またはブランド)を有し、その市場シェアをめぐって価格面やサービス面でしのぎを削っている。彼らに対して両大臣は、どうすれば(携帯電話をはじめとするテレコム産業の)コールセンターを国内に置いてもらえるようになるか、嘆願的要素も交えながら相談したのだと言われる。ネットワーク機器の国内調達(同機器を製造する2社の苦境を背景にしたいわゆる「バイ・フレンチ」の持ちかけ)や、ブロードバンドへの投資促進なども話題に上ったとのことだが、あくまで話題の中心は労働市場についてだった。「(会談内容は)まだ政府からの圧力という段階ではありませんでした」というのが企業側の認識とされるけれど、もちろん各社に対して、政府が何らの期待も抱いていないというわけではない。
コンサル企業ATカーニーの調べによれば、テレコム事業者における経費の18%がオペレーターに係る人件費であり、全体支出に対するこの部門の比重の高さを示している。また他の推計によれば、この分野では約3万人が国外(主にモロッコチュニジア)のコールセンターで働いており(下請け分も含む)、雇用全体のほぼ半分がフランス以外でなされているとも言われる。両大臣が実施した会談(及び若干の働きかけ)は、こうした現実を踏まえ、多少とも国内の雇用を増やすことができないかという強い課題意識から発しているわけだ。しかしながら経済原理を踏まえるならば、そのような働きかけを受け入れるのは、どの社も容易であろうはずがない。
今後政府によって着手される可能性があるのは、ARCEP(電気通信・郵便規制機関)によるテレコム企業に対する周波数割り当て認可に際してのいわゆる「社会的指標」の導入。例えば「フランス国内の雇用に十分に配慮している(すなわち、コールセンターの安易な外国移転を行わない)」等の条項を盛り込むことにより、企業を誘導しようという発想だ。しかし、同様の考え方はシラク政権やサルコジ政権の下でも検討されたにもかかわらず、本格的には実現しなかった。その大きな理由は、オペレーターの配置が経費、ひいては経営全体に与える影響が大き過ぎること。コールセンター業務一般労働組合(SP2C)によれば、オペレーターの1人当たり月間人件費は現在、モロッコでの550ユーロに対して、フランスでは1,520ユーロにも達するという。消費者が期待する「24時間、365日」のサービス提供に関しても、上記で挙げた北アフリカ各国の方がはるかに柔軟に対応できる。その上これらの国では、既にフランスから進出しているコールセンターが観光と並ぶ一大産業として確立しており、これを妨げるような措置は、ただでさえ(元の植民地として)複雑な経緯を有する各国とフランスとの関係を政治的にも混乱させかねない。ある業界関係者は、「(有効な手を打つには)今やもう遅すぎます。(企業間競争が激化する中)売上高の15%ないし20%減を覚悟しなければいけない状況では、まず支出を適正化することが必須です。そして、顧客サービス部門はもっとも大きい支出項目の一つをなしているわけですから(費用削減に努力しないわけにはいかないのです)」と本音を打ち明けている。そして実際にいくつかの会社は、実際に雇用調整計画に着手しているか、またはその準備を進めているのだ。
雇用問題は社会党新政権の真価が特に問われる領域であり、本件は当面の政権運営の行方を占う課題とも捉えられるだけに、今後ともオフショアリングのトレンドを逆転させるための施策、懇請、働きかけは続くだろうが、やはりそれが有効に機能する道筋は見えないと言わざるを得ない。そこにはつまり、(右派左派を超えた、国際政治経済の)グローバリゼーションの深化とそれがもたらす困難とが、如実に現れているのである。