地域開発を担う第3セクター企業が経営行き詰まり

産業構造の変化等に対応しつつ、バランスの取れた国土の発展を期するため、地域整備計画の策定や各種プロジェクトの立ち上げがなされることはどの国でも多い。しかし、経済発展の方向性を誘導しようというかなり無理のある内容のせいで、それらのプロジェクトは思うように進まなかったり、ひどい場合は絵に描いた餅のような惨状を示すことがしばしばなのはまぎれもない事実だろう。7月18日付のベルギー『ル・ソワール』紙は、策定後ごく短期間に無残な状況をさらすことになった同国の地域発展プロジェクトの顛末を簡略に伝えている(EcoTechnoPôle Wallonie: la fin d’une idée prometteuse. Le Soir, 2012.7.18, p.4.)
ベルギーのワロン地域圏(フランス語圏)政府では、2008年末に、地域開発(衰退傾向にある地域の再生)を目的とした一つのプロジェクトを開始した。環境にやさしい発展を進めることを軸とし、廃棄物処理環境保護(大気のクリーン化など)に革新的技術を適用しながら、さらに持続的発展と新分野の開拓を中心的な考え方とする先端的な研究開発を展開するというのが、(抽象的ながらも)このプロジェクトの目的だった。公共サービス科学研究所(ISSEP)が中心機関となり、ワロン地域圏政府といくつかの大企業(製鉄業アルセロール・ミタル、鉄鋼流通業デュフェルコ、セメント製造業CBR、エネルギー供給業エレクトラベル等)や中小企業が出資して、さらにリエージュ大学やルーヴァン・カトリック大学も参加するという産官学連携の第3セクター企業「エコテクノポール社」が設立され(資本金300万ユーロ)、この構想は各方面からの強い推進力を得て展開されるはずであった。
それから3年。実のところ2010年以来、エコテクノポール社は何度も支払停止の危機を経験している。今では現行の企業統治では立ち行かないことが誰の目にも明らかになっており、破産や解散も想定される状態に。決定は取締役会や出資者総会によって下されることになるが、既に参画してきた大企業は一様に撤退の意思を明らかにしていて、より資金確保が容易になるような新しい経営体制に移行する以外には、同社に存続の道はないと考えられている。
公務員労組の連合体である公共サービス一般連合(CGSP)のピエール・パティ氏はこの間の経緯について非常に批判的で、エコテクノポール社が仮に破綻しても雇用問題等の影響は小さい(過半数の職員がISSEPからの派遣であるため)としながらも、「同社はブノア・ルトゥヘン氏がワロン地域圏環境大臣だった時期に、彼の強い意向で生み出されたものです。ところが、彼の後任であるフィリップ・アンリ氏は現在のISSEPの所長と同様、この事業を支えるつもりが全くなく、同社はいわば放棄されてしまったのです」と論難している。
そもそも同社開業時に、ワロン地域圏政府は資本金300万ユーロのうち210万ユーロを負担するとされていたにもかかわらず、実際にはその半額しか払い込まないなど、初めから官の取り組みには熱意を疑わせる要素もあった。また、同社が地域産業育成のためのインキュベーター的役割を果たす研究センターなのか、それとも自ら事業を展開し利潤を挙げる企業たるべきなのかといった点について、関係者間で当初より本質的な認識のずれがあったとも指摘されている。しかしそれにしても、アンリ現環境相がテクノポール社の運営について「同社は一私企業に過ぎません」として、官のコミットメントをほぼ全否定するような発言に終始しているのはいかがなものだろうか。
元を辿れば、一見口当たりが良さそうな事業展望を打ち出す第3セクター企業1社の努力によって、地域の経済・産業が再生すると考えるのは無邪気に過ぎ、いずれは停滞を免れなかったのではないかといった感触を得るのは容易だろう。それにしてもあまりに短く、かつ無残なプロジェクトの挫折ぶりには驚きを覚えずにはいられない。