大学の夏季休暇期間活用法あれこれ

フランスでも大学の夏休みは長い。8、9月まるごと休みといった日本の現状については、「教授も学生ももっと登校してせいぜい研究・勉強すべきだ」といった声も出てきそうな当世ではあるけれど、一方で長期休暇でないと取り組めない課題(地域実習とか、長編の哲学書をじっくり読破するとか)もあるだろうから、せめて上手に暑さを避けて、自由な時間を有意義に活用してほしいものだと思う。さてそういうわけで、パリをはじめ各地の大学では夏のあいだ人の姿が大幅に少なくなるわけだが、7月23日付の『ル・フィガロ』紙によれば、最近はさまざまな形でこの期間を有効に使おうとする大学当局が増えているのだとか(Les universités se mettent à l’heure d’été. Le Figaro, 2012.7.23, p.9.)。
記事が紹介する中で、特に興味深い動きを示しているのがパリ第2大学(パンテオン・アサス大学)。今年初めて、弁護士修習所への入所試験に合格するための夏季集中研修を実施することにしたという。具体的に言うと、同大学と法学系雑誌出版社であるレクスタンソ社が共同出資した組織が主催する形で、弁護士になりたい人のための講習会が7月16日から8月25日までの間実施され、300人ほどの学生が授業の受講に加えて、口述試験レーニングや模擬試験に取り組むことになっている。
ルイ・ヴォーゲル前学長のイニシアティブの下で強力に推進され、実現にこぎつけたこのプログラムの特徴は、民間企業とのパートナーシップという形を取り、その利点も享受しつつ、国立大学としての公共性も発揮できるような工夫をしていること。弁護士修習所に受かるための講習は既に多くの私立予備校で行われているが、その経費が平均で2,000ユーロなのに対し、今回始まったプログラムでは1,600ユーロと20%安い水準に設定されており、また奨学生に対する優先枠も置かれている。一方、実際の運営がいわば第3セクター企業によってなされるため、学費を講師報酬(国立大学では通常低いレベルに抑えられている)に振り向けることができ、実力ある講師陣を(場合によっては私立校から引き抜いて)集めることも可能になっている。
大学がこうした民活、あるいは新事業の開始などといった動きを見せている背景には、2007年に制定された「大学の自由と責任に関する法律」がある。国立大学に今までより広範な財政自主権を認める代わりに、自助努力による資金調達を推奨する内容を含む法律によって、各大学は収益性を有する事業を実施すべしとの強い要請にさらされているわけだ。もっとも、パリ第2大学は地の利を活かすことで新しいプログラムを導入できたという側面が強く、どの学校でも同じようにできるわけでないのは明らか。実際には、約4分の1の大学が実質的な赤字状況にあり、そこから脱却することは難しいと考えられている。
例えばトゥールーズ第1大学は、リュック・ベッソンがプロデュースするテレビ映画のロケ地として夏休み中にキャンパスを貸し出すことで若干の収入を得るなど、資金確保のための細々した工夫を続けているが、同校のミシェル・ラモンガッシエ資産課長は、「この種のイベントはたまにしかないので、(収入源として)大学の戦略の中に組み込むわけにはいきません」と明言している。パリ・ソルボンヌぐらいになればしょっちゅう映画に使われるらしいので、その賃貸料もある程度まとまったお金になるかもしれないけれど、地方の大学では「自助努力による資金調達」の源泉として使えそうにもない。
もっとも、政権交代に伴って教育政策にも変化の予兆が感じられるようになって来ており、オランド新政権の下でジュヌヴィエーヴ・フィオラゾ高等教育・研究相が主宰する全国レベルの会議体「高等教育・研究会合」が12月にもまとめる予定の報告書では、新しい政策の軸が出ることが予想される。この会議体での本格的な議論を前にして、全国の大学からその運営責任者が出席する「大学長評議会」では8月29日に会合を実施し、財政問題を主要な課題として、政府に働きかけるべく討議を進めるものと見られている。
もちろん、純粋に教育と研究の推進という観点から夏季休暇期間を活用しようという大学の動きもある。パリから南西に約250キロ、アンジェ大学ではこの3年間、国内外で医学・薬学を専攻する大学2年生40名を約2週間受け入れ、サマースクールを実施している。この講習で学生たちは、専門的な内容をもつ講義を受けたり、あるいは会議、ゼミ、ワークショップに参加するなどして、研究の世界に触れる機会を持つことになる。同大学医学部のイザベル・リシャール学部長は、「この事業がお金の面で貢献することはほとんどありません。ただ、我々がやっている研究を知らしめ、大学をオープンにするという効果は大きいです」と語る。外国から来た学生にはアンジェ大学、ひいてはフランスの大学一般に対してよい印象をもってもらうことが期待されており、実際、2010年にこのサマースクールを受講した学生が、研究実習のため再び6か月間同校に滞在するという事例もあったとのこと。地道ではあるが手堅い成果が上がっていると言えるのではないか。ほかにも各大学によっていろいろな夏休みの時期の活用法があるのだろうが、やはり少なくとも、研究や教育と切り離されず、それを益するような内容のものであってほしいし、そうした方向での努力が迂遠に見えても長期的にその国の学術のレベルを多少とも引き上げることにつながるのではないだろうか。