学生の夏休みバイト戦線に異状あり

大学の長い夏休みに学生がアルバイトをするのは日本に限ったことではなく、ベルギーなどでも職業体験と小遣い稼ぎを兼ねてこの時期に働く学生は多い(勉強一途でバイトなんかしない、などということはない)。ただ今年については、肝心の働き口がいつもより非常に少なくて、職探しには苦労が伴うようだ。7月26日付の『ル・ソワール』紙は、必然と偶然が重なった結果としての今夏のバイト事情について、その背景を説明している(Les jobs d’étudiants touchés par la crise. Le Soir, 2012.7.26, p.5.)。
この記事に関連して記者からインタビューを受けた2つの人材仲介会社、アメリカが拠点のマンパワー・ベルギー(MB)社とオランダ本拠のランドスタッド社は、学生の短期雇用に関する現況について、ほぼ同様の観測を行っている。MB社の広報担当責任者、マルク・ファンデルレーン氏は、「日頃我々に求人を依頼してくる大企業が、雇用を大幅に抑制しています」と明確に証言。一方ランドスタッド社の調べによれば、7月前半の2週間で見た場合、バイト採用された学生の数は昨年と比べて8.9%減少しており、労働時間ベースでは15.7%もの大幅減を記録している。
これだけの変動が起きた理由はざっと挙げて3つある。一番重大かつ明確な要因は、やはりユーロ危機に伴う経済全般の沈滞の影響だろう。今後の趨勢が見通せない中で、どの企業も(たとえ短期とは言え)人員の新たな雇用には極めて慎重になっている。ファンデルレーン氏は、「一般に企業は、その従業員の子弟たちを(バイト要員として)年によって特に変わりなく採用してきました。また、緊急性がないので日頃放っておきがちな事務整理や在庫整理といった仕事のため、夏休みに若者たちを雇ってきたのです。しかし今年は、こうした習慣はなくなってしまっています」と内情を明らかにする。またもちろん、従業員の一部がレイオフ状態にあるような企業では、筋からいって短期でも新たな人員を雇うのは難しいだろう。
次に大きな理由とされているのが、今夏の前半期、ベルギーの天候が思わしくないこと。というか、6月以前の段階で「今年は夏らしくない天気になる」という長期予報が出されたため、ホテル、レストラン、その他レジャー関係でアルバイト採用を見合わせる動きが相次いだらしい。本来なら客が増え、またヴァカンスに出かける店員もいることからその穴埋めとして短期雇用を受け付けるのだが、そもそも夏が来ないと来客の出足も止まってしまうのだ。天候不順に輪をかけて上述の経済不安の影響もあり、普段ならちょっと一杯やりに来る人たちもずいぶん減っているらしく、結果的に夏期の長期閉店に踏み切ったカフェなども少なくないという。ただ、ベルギーの夏が日本で言うような「夏らしさ」を感じさせるのは普段からほとんどないことで、そういう意味からすると今年の実際の天気は平年に比べて極端に悪いとも言えないようだ(確かに7月前半に限ってはかなり悪かったらしいが)。そうなると結局、変な勘ぐりを煽った長期予報に雇用者が振り回されただけかもしれず、学生にはとんだとばっちりということになる。今後8月半ばから後半にかけて天気が急速に回復すれば(快晴で暑い日が毎日続くなど)、ひょっとするとごく短い間ではあるけれど、浜辺のカフェが緊急バイト募集するといったこともあるかもしれない。
3番目の理由は多少技術的なもので、学生のアルバイト条件についての規制が「年間50日、好きな時期に働ける」といった形に改められたことにより、学生が夏休み以外に働く時期をずらす傾向が出て、求職自体が減少した可能性があるというもの。これはベルギーにおいて、短期労働の需給構造を大きく変更する規制改訂になるかもしれないのだが、今年から実施されたばかりのため、まだ影響の実態などを正確に把握するところまでは行っていないように見受けられる。
企業の中には、ショッピングチェーンとして著名なカルフールのように、今年も基本的に夏期雇用の水準を維持するところもないわけではない。しかし、上記のような要因(理解しやすいものとしにくいものがあるけれど)によって、夏期の雇用が減少しているのは事実。17歳のシモンは、昨年初めてバイトしたリエージュ市中心街の有名なピザ屋で今夏も働こうとしたが、なんとこの店が夏休みに入ってしまったため、予定を変更してオランダ語の勉強に時間を費やすつもりという。多くの若者たちがこんなふうに、勉強したり遊んだり、想定外の休暇を過ごしていることだろう。