銀行破綻の深刻な影響受ける医療機関

フランスで自治体向け融資等を集中的に手掛ける他、ベルギー、ルクセンブルク、トルコでもリテール銀行として営業してきたデクシアの行き詰まり(昨年10月)については、日本の新聞でも事実関係がある程度取り上げられた。7月31日付の『ラ・クロワ』紙は、フランス国内の大学病院の多くが、資金繰りに苦労したり、設備投資のための資金調達に難渋している現状を報じている(Les hôpitaux ont de plus en plus de difficultés à se financer. La Croix, 2012.7.31, p.6.)が、実はこの事態の背景にも、デクシアの破綻劇が深刻な影を落としている。
フランス病院連盟(FHF)の発表によれば、現在フランスの各大学医療センターは、総体で見て13億ユーロ分の短期借入金の返済難に見舞われており、同時に新規投資用資金の20億円不足も抱えている。FHFのフレデリック・ヴァルトゥー会長によれば、資金繰り難の病院は、「下手をすると支払いがほぼ停止するような状況に陥る可能性があり、職員給与の遅配、納入業者に対する決済の滞り等が起こりかねない」とのことだから、事情は極めて深刻である。この場合、国による直接支援など何らかの手立てが講じられなければ、病院の経営破綻すらも予想される事態ということになるかもしれない。
またそこまでではないにしても、予定していた新規投資が困難になっている病院も相当数に上っており、ロレーヌ地域圏にあるナンシー地域大学医療センターのフィリップ・ヴィグルー院長は、「(資金調達難などにより、新しい医療設備の導入、情報機器の更新、施設整備等に向けた)新規投資は(予定していた4,000万ユーロの半分である)2,000万ユーロに絞らざるを得ない状況にあり、このままでは今年中に導入予定だった医療機器を来年まで待つことになりかねません」と危機感を募らせる。つまりその分、フランスの大病院における医療の質の一時的な停滞につながるということにもなりそうだ。
そして、病院のこうした財務危機の大きな誘因とされているのがデクシアの破綻(解体、国有化等)。2008年にリーマン・ショックのあおりを受けて最初の危機に遭遇した同銀行は、フランス、ベルギー両政府から公的支援を得て当座をしのいだが、ギリシャなど南ヨーロッパ諸国の国債を大量に保有していたことから昨年再び資産劣化、資金繰りの悪化を生じさせ、組織を分割して処理されることになった。不良資産の切り離し、ベルギー国内銀行部門の一時国有化などが主な対応策で、フランス国内で地方自治体などへの融資を担当する部門については公的金融機関である預金供託公庫や郵便貯金銀行に譲渡される方針となっている(『日本経済新聞』2011年10月6日、10月10日、10月11日夕刊を参照)。大学病院も公共施設としてこれまでデクシアからの長期融資に多くを依存していたため、これらの動きの影響をもろに被ることになった。事業譲渡の結果、病院は今後、郵便貯金銀行から融資を受けられる見通しとなっているが、譲渡の具体的作業が今年末以降にずれ込む状況となっているため、特に短期の資金繰りについて困難が生じているというわけだ。
もちろん病院の側もただ手をこまねいているわけではなく、民間銀行などと融資の交渉を進めているものの、各銀行はただでさえ「貸し渋り」に陥っており、財務基盤が強靭とは言えない病院向けの長期融資などに応じる余裕はありそうもない。グルノーブル大学医学センターなど約20の施設では共同債発行といった試みを数年前から始めており、2009年に2億7,000万ユーロ、2010年にも1億8,700万ユーロの調達に成功したが、つい最近、米格付け機関ムーディーズが「財務環境の急激な悪化」を理由にこの共同債を格下げしたため、今後の発行には暗雲が立ち込めている。まして短期の資金繰りに一喜一憂する病院に至っては、そもそも自らの経営を行き詰まらせることなく事態を乗り切ることが喫緊の課題であって、しかも国による支援措置などを前提としない限りは、そのハードルは決して低くない。
こうして見て来ると、おそらく多くの病院が元から財務状態の弱さを抱えていたであろう(そうであるが故にデクシアの長期融資に大幅に頼らざるを得なかった)ことに一義的な問題を帰着させるにしても、銀行経営の挫折は極めて多くの借り手・貸し手に大きな影響を及ぼすという意味で、今更ながらやはり非常に罪作りと言わざるを得ないと思うのである。