夏を彩るジュネーブ湖岸の花火大会

今年はこれまでのところ、ライブでは花火を見ていない。あの迫力はテレビで伝達不可能とは分かっているけれど、さしあたり足が向かないのだ。ただそれでも、花火大会のニュースを聞くと何かしら好奇心を動かされることは確か。8月9日付のスイス『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙は、ちょうど開催されている「ジュネーブ祭り」で大々的に実施される花火大会について、大きな写真付きで取り上げている(Un show qui met le feu au lac. Tribune de Geneve, 2012.8.9, p.13.)。
真夏のフェスティバルであるジュネーブ祭りは、少なくとも第二次大戦直後の時期までその歴史が遡れるほど由緒あるイベント。年々規模は大きくなってきており、今年は7月19日から8月12日まで、約1か月弱の間開催される。レマン湖でのボート競技やビーチラグビー、ストリートコンサートやクラブでのミュージックフェスなど行事も多様で、また子どもたちが楽しみにしている移動遊園地や特設屋台などもメイン会場に設けられることになっている。
そして、一番注目を集めるのはやはり、最終日の前日(8月11日)の夜、湖上で繰り広げられる音楽と花火の祭典だろう。全ヨーロッパで見ても大規模なものの一つと言われるこのショーは毎年テーマを設定することになっており、昨年は「オペラ」、そして今年は「水」という題が決められている。花火大会の責任者であるピエール−アラン・ベレッタ氏は、「今回チャレンジングだと思うのは、火という手段を使いつつ、水が多種多様に示すメタモルフォーゼを上手に表さなければならないということです」と、今回企画の要の部分を説明する。どうやら、水の上で水を、花火によって表現するということのパラドクスにどう挑むか、という問題意識を強く持っているようだ。
55分間にわたるプログラムは3部立てで構成され、各パートはそれぞれの季節を表象するイメージで演出される。第1部は春から夏にかけての水の様子を、黄色やピンクといった明るい色を中心に表現し、またしとしとと降る春雨を紫色の花火を効果的に使うことで印象づける。第2部は夏から秋で、この時期に起こる激しい雷雨や嵐を、波が押し寄せるように見える赤、オレンジ、金色の花火から感じさせようとする。そして第3部では、秋から冬という時期の寒さや暗さを白、青、あるいは青緑色の光で捉え、最後には初雪の到来を視覚に呼び起こしながらフィナーレを迎えることになる。なお、花火のバックで流れる音楽も、ヒットチューンからクラシック、そしてフレンチポップスと移り変わりながら、視覚の鮮やかさを聴覚で支え、バックアップするよう構成されているらしい。
なお今大会では、色を変えながら動き回る花火「カメレオン爆弾」など、新型の花火も投入される予定。約30人の花火師が盛り上げるこのスペクタクル、おそらくレマン湖周辺のあちこちで見ることができるだろうが、特等席で見たい人には50、60、70スイスフランのチケットも用意されている。開始時刻が、高緯度のため夏は日が長いヨーロッパ全般の例にもれず、午後10時からとなっているのは日本と大きく違うところだろう。技術と職人技自体は日本が圧倒的に世界をリードしているのではないかという思いもあるが、さぞ湖面に映えるであろうジュネーブの花火、一度は生の現場で楽しんでみたいものだ。