現代美術に親しむ子どもたち

コンテンポラリーアートの作品を買い付けるセレブたちについて、このあいだ当ブログ(7月1日付)で紹介したばかりだが、今日も現代美術の話題を取り上げてみよう。大人が見るとなにかと考え過ぎ、かえってわかりにくくなるこの種の作品でも、子どもは余計な思い込みが少ないだけ、素直にその世界に入っていけるのかもしれない。というわけで、いくつかの美術館は子どもに対して、現代美術に触れる機会を提供するプログラムを熱心に実施中。8月6日付のフランス『ラ・クロワ』紙はそんな動きのいくつかを紹介している(L’art contemporain, terrain de jeux pour les enfants. La Croix, 2012.8.6, p.13.)。
まず、フランスの現代美術館といってまず思い浮かぶパリのポンピドゥー・センターは、さすがに目の付けどころもよく、「子どもギャラリー」という部屋を常設してさまざまな企画に挑戦している。最近実施されたのは、作家たちの手に拠るコラージュ作品に触れつつ、自分たちでも自画像をコラージュで作ってみようというアトリエイベント。写真家、シルヴィー・ペスネル氏がモデレーターを務め、雑誌の切り抜きなどを基に女性像と機械を交錯させたちょっと奇妙な「ポートレート」について解説した後、参加していた6歳から10歳までの子どもたちに制作を促す。最初は戸惑い気味だった彼らも徐々に作業に没頭するようになり、1時間後には、ロボットと羊の取り合わせ、3つの目を持つスーパードッグといった形象を持つユニークな肖像が出来上がった。子どもたちは絵画の歴史に関する知識や常識などが全くない分、そういった「余計な」知識やイメージに縛られずに、一つの形を作ることができたのだ。
『20世紀美術を子どもたちに語るには』の共著者であるフランソワーズ・バルブ−ガル氏は、歴史などに関する思い込みがないことが子どもの強み、と考えている(本人は美術史家なのだが)。「大人は絵画を美学や歴史的コンテクストの観点から理解するため、古典美術と現代美術に区別をつけてしまいます。子どもはそうした背景を持たずに作品に近づくことができるのです」。まずは絵や彫刻といった作品を良く見ることが最も大切なのであり、そうした作品が表出する力、色の存在や間近に感じられる人間的、情緒的な要素といったものが、見る者、とりわけまだ幼いとされる者たちを想像の世界に誘うのだと彼女は力説している。
またポンピドゥー・センター以外でも、子ども向けの企画を実施する美術館は各地に見られる。アヴィニョンにある現代美術のミュージアム、ランベール・コレクションでは、2000年の開館当初から子どもに対するアプローチに着目しており、具体的には夏休みの時期に彼らを対象とする研修を行っている。同館の広報担当、ステファンヌ・イバール氏によれば、こうした事業展開によってさまざまな世代が美術館にかかわるようになり、またアートをめぐる各世代の相互交流といった効果もあるのではとのこと。一方、パリの南郊、ヴィトリ−シュル−セーヌ市のヴァル−ドゥ−マルヌ現代美術館では、特別展等の内容に関連させつつ、そこに出展している作者が直接子どもたちに語りかける「現代美術の構造」というアトリエを継続的に開いており、好評を博しているらしい。広報及び文化行事担当のステファニー・エロー氏は、創作の開始点となるエスキースから完成物まで、段階を経て作品が出来上がっていくプロセスを、美術家自身の解説を助けにして参加者が理解する貴重な場になっていると、このイベントを評価している。
確かに、予断なく美術を楽しむ心が幼いうちに育っていれば、大人になってからも素直に現代美術の先端的試みを受け止められるのかもしれない。当方どうしても頭でっかちになってしまうきらいがあるだけに、そうした機会を得ないまま今日あることを多少残念にも思うのである。