緊急時対応電話をめぐる混乱

一般に報道こそされないけれど、日本の緊急時救援を引き受ける2つの電話番号、110番と119番には、多種多様な、本来の目的とは関係のない電話がかかっているのだろう。そんなことを発想したのは、ベルギーではこうした状況が統計で明らかにされ、社会的な問題になっているという記事を読んだからである。同国ではさらに、緊急電話の体系がうまく構築されていないために、問題がより複雑になっているという。9月14日付の『ル・ソワール』紙で、より詳しいところを見てみよう(Urgences: un appel sur trois est bidon. Le Soir, 2012.9.14, p.7.)。
今回データが公表されたのは、ベルギーで救急及び火災を通知する電話番号、100番及び112番の利用状況。議員の質問に答える形で、ジョエル・ミルク連邦副総理兼内務相が、内務省の市民安全局で実施した調査の結果を明らかにした。それによれば、2011年に両番号にかかってきた全通話256万件のうち、約3分の1に当たる81万5,000件もが、そもそもそこで受理すべきではない内容のものだったというのである。
市民安全局ではこの「不適切な電話」を、具体的には「30秒を超えずに終わってしまった通話」と定義している。つまり、そもそも緊急のものとして受け入れ、対処に移るような電話であれば、担当者とやり取りするのにどう見ても30秒以上はかかるだろうというわけだ。不適切な電話はさらに、「悪意を含んだ電話」と「善意の電話」とに二分される。前者はいわゆるいたずら電話で、なんとこれが4分の1にのぼる。一方残りの4分の3は、発信者自身は何らかの目的で真剣に電話をかけてくるのだが、それが救急とか消防というカテゴリーで対処するものではない場合が該当する。なかには電話番号の問い合わせ(日本でいう104番)とか、さらに「ドアから締め出されて家の中に入れない」などと訴えてくる者もいるそうで、オペレーターは、「この番号はお申し出のようなトラブルに対応するものではありません」と丁寧に説明しなければならなくなる。
連邦政府では、こうした間違いを少しでも減らすための取組みを来年からスタートする構え。各種の広告媒体を使って、「間違い電話1本で、ほかの緊急通話への対応が後回しになり、なかには手遅れになることも」、「緊急出動を本当に必要としないなら、どうぞ電話をしないでください」と幅広く広報していく意向らしい。ただベルギーの場合、間違いが多くなる背景にはもう一つの要素、「未整理な番号体系」がある。そもそも同国では、救急と火災に対して100番を用いてきたが、ヨーロッパ共通の112番が設定されたため、これも併せて緊急番号とした。将来的には112番に一本化したいというのが政府の希望ではあるものの、長年使い続けられている100番の定着度は圧倒的に高い。2010年時点で、112番への通話が70万件だったのに対し、100番にかかったのは150万件と2倍以上にのぼっており、このままでは一本化に踏み切れる情勢にはほど遠いと言わねばならない。
さらにベルギーでは救急関係と警察関係で番号が分かれており(日本と同じパターン)、後者は101番となっているのだが、実際には(ヨーロッパの他の国で両者混在の運用が実施されているせいか)、泥棒被害や交通事故で112番にかかってくるケースが後を絶たない。この場合、各州にある救急電話センター(100番と112番を共に扱う)では、即座に警察の情報通信センターに転送しているが、このプロセスが電話を取るオペレーターにとって余分な仕事になってしまっているのは明らかだろう。
しかし抜本的な対策は見当たらない。あまりに悪質であれば、刑事罰を課したり受信をブロックしたりする(嫌がらせ電話など)も理論的に可能だが、善意の人が間違えるのはどうしようもない。まして間違いの原因の一部は番号体系の側にあるのだからなおさらである。日本では定着度が高いと思われる緊急時対応電話も、国が違えばこれほど事情が異なることが興味深いと思う。