クリスティアン・コンスタン、料理への情熱

フランスのレストランやグルメ全般に関する話題をしばしば掲載している当ブログ、要するに書き手の趣味と関心に拠るところになっているわけで…。今回のテーマもレストラン、それもシェフへのインタビューが話の中心になっている。10月23日付の無料紙『メトロ』では、紙面のまるまる1ページを使い、ミシュランの星を有するパリのレストランでシェフを務めるクリスティアン・コンスタン氏の人柄を、写真と記事で伝えている(Christian Constant un chef au top. Metro, 2012.10.23, p.10.)。
クリスティアン・コンスタン氏」というと、当国においては銀座にも店を一時期構えていた(現在は閉店したらしい)高級チョコレート店のオーナーが有名なようだが、今日取り上げているのは同じグルメの分野でもレストラン店主(日本の一部では両者を同一人物とみなしている向きがあるとも)。「ル・ヴィオロン・ダングル」がミシュラン一つ星をキープしており、また他に経営している店もそれぞれスペシャリテを持ち、好評を博しているようだが、「星付き」から想像されるような堅苦しさがほとんど感じられないのがこれらの店の特徴らしい。そしてそうした店の暖かみは、どうやらシェフのパーソナリティに基づくところが大きいようだ。
トゥールーズの北50キロにあるモントーバン市に生まれ、パリの超高級ホテル、リッツとクリヨンで計10年間働いた経験を持つコンスタン氏は、現在60歳代前半、料理人としての円熟を感じさせる年になっている。そして彼は、その料理を通じて伝えたい、表現したいこととして、故郷であるフランス南西部の食の豊かさを真っ先に挙げる。「この地方には、帆立貝を別格としても食材ならありとあらゆるものがあります。生産者は素晴らしいし、肉屋も頑張っている。ショーヴィニスト風になってしまいますが、フランスには世界で一番優れた(農や食の分野の)職人たちがいると、私は信じています」。彼らの銘品を使い、具体的に料理へ仕立てていくのが自分の領分だと思えば、レストランに変な気取りなどは全く必要ないというのが彼の発想なのである。
リッツやクリヨン時代から、何人もの若手料理人を指導し、また共に仕事をしてきたコンスタン氏。彼はそのことに非常に自覚的で、「僕が監督、彼らが選手といった感じでしたね」と振り返る。しかしそれは偉ぶりたいという意識とはほど遠いもので、自身が「一人ぼっちではシェフといっても何て事ないです。チームが必要なんです」と語っているように、むしろ協働することをとても大切にし、若手にも思いやりのある眼差しを注ぐ様子が伝わってくる。
そしてこうした彼の気持ちは(一見意外にも見えるが)、民放テレビ局M6の人気番組、若者たちが真剣に料理の腕を競う「トップシェフ」への審査員役での出演にもダイレクトにつながっている。3シーズン連続して登場しているコンスタン氏は、「この番組が人々に料理することの楽しみを改めて伝えてくれているように思います」と述べ、娯楽とはいえ深い意味のある番組と評価しているようだ。またテレビ出演は彼の店にも好影響を与えている。「子どもの誕生日祝いで僕の店に来る家族がたくさんあります。僕が親御さんに、こういうのが食育になると思いますよというと、ここに来たがったのは子どもの方だそうなんですね。つまり、テレビに出てたあのおじさんを見に来たということなんですが、きっかけということならそれでいいですよ」。子どもたちにとって、早い段階で基本的な味覚への感受性を整えることがとても重要だと考えるコンスタン氏にとって、彼らの来店には単なる儲けの問題を超えた喜びがあるようだ。
近刊の著書でも、人々に料理の美味しさ、楽しさを伝えたいというモチーフ、そしてフランス南西部の料理や食材に対する愛着の表現といった点で、もとからの筋が一本貫かれているらしい。それだけの熱意、そして喜びを持ったコンスタン氏が作るものなら、きっとどれでも素晴らしいのだろうと想像できることは、実に楽しいと思う。