食事をめぐる意識は保守的かつ現実主義

フランス人は食事を大事にし、たっぷり時間をかけるとある種の神話のように言うけれど、現代社会のリズムはそうした悠長さをなかなか認めてはくれない。実際、都市部のサラリーマンは、サンドイッチなどで昼食を手軽に済ませるのが普通になっているとも聞く。日本では食の多様化、さらに個人化が進み、家族、あるいは友だち同士がテーブルで顔を付き合わせて食事をするというのさえ一般的でなくなってきたとも言われるが、フランスは果たして、生活スタイルの変化という現在の潮流をさらに推し進めていくのだろうか?11月8日付のフリーペーパー『メトロ』紙はアンケート調査を基に、食事に関するフランス人の現状や意識を探っている(Les Français se mettent à table. Metro, 2012.11.8, pp.10-11.)
ネスレ財団の委託によりイプソス社が実施したアンケートの結果によると、生活様式変化の影響という事前予想を裏切るように、約3分の2の人々がほぼ毎日、あるいはかなりの頻度で家の食卓を囲んでいると回答している。また、「食卓で過ごす時間をとるということが、食事の内容と同様に重要な意味を持つ」と答えた人はなんと全体の93%にも上った。『食卓の上のアイデンティティ』の著者で歴史家のパスカル・オルリ氏はこうしたデータをうけて、「フランス人は伝統的な食事の形を守るのに熱心な民族の一つです。確かに伝統を理想化しているきらいはありますが、それを維持したいというはっきりした意思があるのは間違いありません」と語っている。ユネスコが2010年に、フランスの食文化(必ずしも豪勢な食事というわけではなくて、質が高く定式化された食事のフォーマットを指している)を「人類無形文化遺産」に指定したのも、こうした伝統に対する愛着あってのものと考えられるだろう。
さらに現代の特色としては、従来からの食事のあり方を、健康面からも評価する見解が目立つことが挙げられる。栄養に関する適切な態度が涵養され、またゆっくり時間をかけることで食欲の調整にもなるというわけで、伝統的な食事スタイルには肥満を減らす効果があると考える人が75%にも達しているのはやや驚きでもあるが、ファストフードに依存する日々を過ごすより健康によいというのは確かに言えるだろう。そして、このように優れたならわしを子どもたちに伝えていく(いわゆる「食育」ということか)のが重要という考え方には、なんと98%もの人が賛意を表明している。
ところで、『メトロ』紙はこの記事の中で、ミシュランの3つ星レストランを3店舗経営する超有名シェフ、アラン・デュカス氏へのインタビューを実施している。デュカス氏は、近年のフランスで食事を大切にする習慣が弱まりつつあるのではという印象をはっきりと否定し、農家や商店(大規模店舗を含む)などでどこでも食品の質に対する意識が高まっている現在は、かつてないほどに食事の質も向上していると考えるべきだと述べる。また彼自身がレストランで提供しているメニューについても、「食の楽しみと原材料とのバランス」を何より重視しているとし、また一方ではイートインの軽食店「ベー」をパリ8区、モンソー公園の近くで展開するなど、「美味しいものを、素早く、安く」といった需要にも応える試みを進めているとも語っている。
3つ星レストランでのディナーと市井を生きる庶民の日常食とではあまりに次元は異なるけれど、それでもフランス、(多少の現代化はありつつも)食に対する思い入れには共通のものがあるということか(あくまでも「思い入れ」であって、現実の食事が理想的かどうかは別だが)。ちょっとした記事にもお国柄が如実に現れるものだとつくづく思う。