カキ密猟をめぐる攻防

冬のパリ。広場に面したレストランでは、店の前に活きの良さそうな魚介類を並べ、行き交う人々の目を引いている。なかでも氷をのせた箱の上に綺麗に敷き詰められたカキは、それを生で食す味わいとあわせ、この季節のフランスの風物詩の一つと言える。
そんなカキの漁獲現場を、12月13日の『オジュデュイ』紙が伝えている(A l'approche des fêtes, les huîtres d'Arcachon sous haute surveillance. Aujourd'hui, 2008.12.13, p.14.)。ボルドーの南西約50キロ、内湾に開けた漁港アルカションでは、養殖カキの漁獲の70%が集中するクリスマス前の時期を迎えて厳戒態勢。真夜中に憲兵隊などが巡視艇とヘリで警備に当たり、漁民も加わっての警戒が続く。不審な漁船が見つかると積荷の検査と尋問が行われる。昨年(2007年)は3件が裁判に持ち込まれたのだそう。
この地域では2000年頃からカキの密猟被害が急増し、本格的な警備体制が取られるようになった。現行犯の摘発は少ないようだが、抑止効果は上がっていると見られており、2004年には15トンだった被害が、今年(2008年)はこれまでの時点で4トンと減少傾向にある。しかし、当地のカキ漁業組合長オリビエ・ラバン氏は、「1トンの密漁でも、小規模な漁民を窮地に追い込みかねない」と気を引き締める。
日本で言えば、山形県のサクランボ盗難のような話か。グルメを支える生産現場、そんな当たり前のことに改めて思いをいたす。

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海野弘『パリの手帖』(マガジンハウス、1996)から、スーザン・ソンタグの孫引き。(61頁)
「なにげない日常が、パリでは天国である。こじんまりした部屋で11時に目覚め、安いビストロでランチを食べ、午後にオールド・ネイビーか、または他の、サン・ジェルマン大通りにある、それほど当世風でないカフェにいて、シネマテークの最初の(または二番目か三番目の)映画に行く前に、バゲットのサンドイッチをかじる。(後略)」
(後略)としたのは、そこらあたりから自分とは行動様式が異なってくるからだが、引用の部分については、そうなんだよね、とうなずいてしまう。何気なく楽しい、自分にとってもそれがパリの最大の魅力だと思う。バゲットは弱った歯には少々固過ぎることもあるけれど。