ローザンヌでタクシー強盗続発

経済不安の高まりも相まって、「殺伐とした世相」は今やメディアの常套句。日本でも大阪などでタクシー運転手が襲われる事件が相次ぎ、いかにも世相の荒れようを感じさせる。そんな中、1月6日付けのスイスの日刊紙『ヴァンキャトルール』は、スイスのフランス語圏第2の都市ローザンヌで昨年末に続発したタクシー強盗事件について、大きな写真とともに詳しく伝えている(En huit jours, six chauffeurs de taxi agressés à Lausanne. 24 heures, 2009.1.6, p.19.)。
記事によれば、12月21日から28日までの間に、ローザンヌのタクシー・サービス社配車センターに所属する運転手を中心に6名が襲われ、売上金を奪われた。運転手はいずれも、ローザンヌ市北部で夕方または夜間に乗務中、乗車した客にナイフで脅されており、被害総額は数百スイスフラン(1スイスフランは約80円)と見られている。
不幸中の幸いというか、この事件は早期に解決の道をたどりつつある。12月28日に3名の少年の身柄が拘束され、引き続きの捜査により計7名が少年裁判所に送致されている。全員がローザンヌ在住、15才か16才の若者だった。
警察の発表では、今回は同一グループによる集中的な犯行と考えられるが、通常は地域内のタクシー強盗は年3件ないし4件とそれほど多くはなく、むしろ運転手の隙を狙った売上金の万引き犯罪の方が目立つとの由。しかし一方で、強盗にあっても警察や会社に報告しない者もいるので、被害件数はもっと多いのではとのタクシー会社や運転手側からの見方もある。
日本での強盗事件の方が件数も多く、未解決事案もしばしば生じるので、スイスの例と比較すべき点はそれほどないようにも考えられるが、興味深いのは現在提起されている防犯策に見られる彼我の差。日本では例えば『産経新聞』が社説(「主張」)で、運転席と後部座席の間の仕切り板設置を徹底すべしと述べている(1月11日付け)。他方スイスでは、上記タクシー・サービス社配車センター長のクリスチャン・ビファール氏が、「ガラス板を設置してもそれほど事態が変わるとは思えない。むしろ、料金を夜はカード払いのみとするなどの方が、運転手が現金を持たなくて済むようになるのでよい」と指摘する。現金払いが相変わらず圧倒的な日本との違いの大きさを思う。もっとも、タクシー運転手が密室を仕事場とする「危険と隣り合わせの職業」であることは万国共通なのだが。