花を買う男たちの肖像

ヨーロッパの人々は生活に花を取り入れるのが上手い。日照が短く寒さも厳しい時期が長い地域では、それだけ住まいを花の彩りで美しく整えることに愛着が生まれるのか。冬にヨーロッパを旅すると、街並の色合いがくすんでいる分、花屋の店先がひときわ鮮やかに映るような気がする。
3月上旬、まだ寒さに覆われているスイスで花を買い求める人々。3月15日付け『ル・マタン』紙日曜版の付録誌『フェミナ』では、スイス西部ヌーシャテル駅内の花屋を訪れた客のうち、男性だけ8名を選んでインタビューし、花を買う目的や花にこめる思いなどを聞いている(Messieurs, que dites-vous avec des fleurs? Femina, 2009.3.15, pp.36-37.)。誌面には、インタビューされた下は7歳から上は53歳までの男性が、花を抱えてポーズを取る写真も。
最初の質問は「どんな花を買いますか?」。やはり定番、バラを選んだ男が8人中6人。もちろん赤、白、黄色のバラだけで花束を作ったり、ユリをメインにしてバラを添えたり、アレンジはいろいろだ。他にランの鉢植えを贈ることにした男性が1人。
花を買う目的、これは全員が予想通り、妻、ガールフレンド、母親など女性に贈るためと答えている。一方花に託す思いはそれぞれユニーク。とてもロマンティックな答えが多いのが楽しい。
「花束はポエムのようなもの。ことばはなくとも、花それ自体が何かを語る。花を贈ること自体はつかの間の出来事だが、花を贈られたことはいつまでも忘れないものさ」(アラン、44歳)
「花は美しさ、はかなさ、希望、情熱、あるいは心の痛みといったものを伝えてくれる」(ティエリ、40歳)
「僕は花を買うことはそんなにないけど、マーガレットを摘んできてママやおばあちゃんにあげたりしてるよ」(ノア−エヴァン、7歳。彼の花束はアンスリウム3本というユニークなもの。店の人のアドバイスか?)
登場中最高齢、ローランはちょっと変わっていて、見知らぬ女性に花束を贈るのだという。「ミグロス(スイスのスーパーマーケットチェーン)のレジ係の人とか、街なかで寂しそうにしている人とか」。しかも下心は全然なくて、花をあげたらそれっきり。「花を贈るという一瞬の行動が好きなんだ。明日はもうその人とは何の関係もない」。ふむ、本人は満足だろうが、日本だったら確実に変人と思われそう。でもこうして誌面に写真入りで堂々と登場しているから、スイスなら許容されるということだろうか。社会や人間関係のちがいということか。
日本男性も、一昔前に比べればだんだん花の贈り方が洗練されてきているのだろう(希望的観測)が、ロマンティックなスイス人にはまだまだ及ばない。まあ人のことを言えた義理じゃないけどね。
そう言えば、80年代にTBSで「金曜日には花を買って」というドラマをやっていたのを思い出した。いわゆる「金妻シリーズ」の流れのドラマだったが、今の人は「キンスマ」しか知らないんだろうなあ。

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夕方、飯田橋日仏学院でやっている「フランコフォニー・フェスティバル」に立ち寄ってみる。相変わらずイベント時の日仏学院は賑やか。スイスのブースでチーズフォンデュを実演販売していて、列が長く続いている。ほかにアフリカ諸国のブースも。
結局、ベルギーワッフルを一袋買って帰宅。週明けに職場で配ることにしようか。