大人も「おやつの時間」を楽しもう

学校から帰ってきて「おやつある?」子どもにとって午後のお楽しみは洋の東西を問わないようだ。3月22日付けの『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』紙は、幼少時のささやかな思い出のなかにあるおやつを、大人も取り戻そうというフランス国内のムーブメントを伝えている(Le quatre-heures à tout âge. Le Journal du Dimanche, 2009.3.22, p.20.)。
食後のデザートとは違う、おやつ復権の提唱者(ある意味では新手のマーケティング仕掛人)はエメリ・ドリジェ氏。彼はおやつの思い出をテーマにしたSNSを去年の12月に立ち上げ、投稿者を募っている。現在では100人ほどがブログを掲載、SNSの参加者は700人にも及ぶという。
メタボ撲滅時代におやつ?という疑念がなくもないのだが、「おやつは一日のなかで、唯一の喜びと自由のひとときなのです」と言うドリジェ氏の思い入れは深い。街のバーラウンジで日曜日に「おやつの会」を開催している、リヨン市議会議員のロマン・ブラシエ氏は、「おやつの会は新たな出会いの場になっています。ホットチョコレートを飲みながらおしゃべりすると、普通の飲み会よりも穏やかなひとときになります」と説明する。
最新の話題は、パリのホテル・パークハイアット・ヴァンドームで、おやつをレストランの午後の時間帯のメニューに取り入れようという動き。ミシュランの星を獲得しているシェフ、ジャン−フランソワ・ルーケット氏の監修のもと、パティシエが「おやつ」に腕を振るうのだそうだ。
デザイン面も凝っていて、注文すると、学校時代の文具箱を思い出させるフタつきの箱が出てくる。箱のなかには、ミニサイズのマドレーヌ、サクリスタン(ねじりパイ)、アップルパイ、プティブール(ビスケット)、バターやジャムを塗ったパン、チョコレートムースなどが、鉛筆・消しゴムといった文房具を模して並べられているという趣向。もちろんチョコレートドリンクや牛乳などの飲み物もついてくる。「(おやつプロジェクトで)以前からどこでもやっているティータイムと違う、当方の特徴を出せればと思っています」と、ヴァンドーム広場に面したこの一流ホテルのレストラン部責任者、アルノーデュエム氏は狙いを説明する。
なるほど、自分はおやつ類はなんでも好きだし、上のホテルの企画には(値段次第だけれど)行ってみたい気がしないでもないのだが、今一つピンとこないのは、日本の場合、子ども時代のおやつの思い出が、今の食生活とそれほど断絶しているようには見えないことだ。大人と子どもの文化的な境界に関する感覚が、フランスとはやはり相当違っているのだろうか。

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フィガロ・ジャポン』誌4月5日号の特集は「パリの日常を歩こう」。さらさらと眺め飛ばしてしまったが、ちょっと引かれたのはパリで食する地方料理の紹介(108-109頁)。フランス国土のど真ん中に位置するオーヴェルニュ地方の名物料理は、塩漬け豚とソーセージ、キャベツの煮込みなのだそうだ。「これぞ山の料理」との触れ込みだが、要はパリ東駅あたりに多いアルザス料理とそんなに変わらないということじゃないのかな。