郵便局網に大ナタの危機

ネットの普及に代表されるコミュニケーション環境の変化、全般的な経済自由化の波などに影響されて、郵便や郵便局をめぐる状況は、世界中で大きな変動にさらされている。スイスは公社制度(ラ・ポスト)を維持しているが、民営化を進める日本と背景事情がそれほど異なるわけではない。4月11−13日付け(復活祭休暇に伴う休刊のため)の『ヴァンキャトルール』紙は、そんなスイスの郵便局をめぐる最近のうわさと騒ぎについて伝えている(La Poste accusée de vouloir fermer un office sur deux. 24 Heures, 2009,4,11-13, p.5.)。
騒ぎの直接の震源地は労働組合。郵便分野や電気通信分野を統括するスイス郵政労働組合が、現在2400ある郵便局のうち、1150局が閉鎖される危険性があるとして、具体的な局名も挙げて公表したのだ。名前の出た局の地元で人々が疑心暗鬼になり、大なり小なりの騒動が生じたのは想像に難くない。
これに対して、ラ・ポストの広報責任者であるナタリー・サラマン氏は、「組合が勝手に人々を不安に陥れたのです」と不快感を示す。そしてラ・ポスト経営側としては、「500局の扱いについて検討している」というのが事実であるとする(具体的な局名は示さず)。一方組合副委員長のディディエ・パージュ氏は、独自の情報に基づいて、情報システム未接続で閉局の可能性が高い305局、その他中小規模の約850局を挙げたのだと主張している。ただ組合側も、850局の全てが廃止になるとは言っておらず、当面閉鎖になるのは上記の305局とあわせて全部で500局程度かも知れないと改めて説明している。
サラマン氏は、500局の扱いを検討中と言っても、完全に閉鎖してしまうのはごく一部であって、残りは郵便出張所という形にし、村の食料品店、観光案内所、カフェなどへの委託が考えられるとしている(日本でもコンビニ委託?郵便局のコンビニ化?といった話があった)。これに対しパージュ氏は、出張所では切手販売や小包の発送は可能でも、送金などユニバーサルサービス(居住地にかかわらずあまねく利便を保証すべきサービス)の一部をなす金融業務はできなくなるのではないか、と反論する。また視点を広げて、「ラ・ポストの収入のうち、80%は上位1000局で稼いでいるものであり、次の1000局で17%、そして残りの局(400局ということになる)での収入はわずか3%だ。経営側の戦略は、最小規模の400局を廃止し、中規模1000局を郵便出張所に格下げするということだ」と将来的な見通しを指摘する。
サラマン氏は経営側として、「郵便局は国民の資産であり、そんなこと(普通の郵便局を1000局だけにする)が政治的にできるわけがない」と述べている。しかし、閉鎖危機にある郵便局リストの公表が多分にセンセーショナリズムに陥っているにしても、労組の悲観的観測はあながち的外れとは言えないのではないか。既にラ・ポストが独占的に扱える送付物は100グラム以下の郵便等に制限されており、公社形態であるにしても独立採算制をとるラ・ポストの経営の将来は決して明るいものではない。ヨーロッパ全体を覆う自由化の波にスイス郵政も洗われているのであって、山岳国であるスイスにおける郵便局ネットワークの維持には、今後幾多の難局が待ち受けていると思わざるを得ない。

                                        • -

個展へのお誘いがあり、東横線沿線の大倉山に出かける。パリをテーマにした、アクセサリー、小物や水彩画の展示。ギャラリーが商店街の真ん中にあって、個展が街に開かれ、溶け込んでいるように感じられるのがとても好もしい。大倉山という街並みの持つ雰囲気のゆえんか。