夏の果物は豊作予想、価格は?

みずみずしいフルーツは季節の彩り。ヨーロッパでも事情は同じで(ただし日本より全般に大柄、大ぶり)、街中の八百屋やスーパーには、各々の時節の果物が山と積まれている。もちろん、農作物の出来は自然の諸要素に左右されるわけだが、『ル・パリジャン』紙は5月4日付けで、夏の果物は全般に豊作かつ低価格になりそうだとの「朗報」を伝えた(Les fruits moins chers cet été. Le Parisien, 2009.5.4, p.4.)。
前年比で生産増が最も顕著に期待されているのはアプリコット。2008年は春に入ってからの寒波が響き、収穫高が例年の半分の8万1,000トンにまで落ち込んだが、今年はその2倍以上に回復すると予測されている。生産者はその分卸売価格や小売価格も安くなると見ており、昨年小売でキロ当たり4ないし5ユーロだったところ、この夏については3ユーロ以下の水準(3割から5割安!)を予想している。
生産環境が好転し、その分価格が安くなると見られているのはメロンや桃も同じ。メロンについては、年間生産高は昨年と同水準との予想にもかかわらず、夏季を通じて平均した収穫が期待されることから、生産者は安定供給に基づく価格低下を見越している。一方桃は、この冬が厳寒だったことが生産にプラスとなり、収穫予想は微増。さらに、スペイン南部からローヌ川沿いの地帯まで、幅広い地域から平均した供給がなされるため、アプリコットほどではないにしても価格はある程度下がるとみなす向きが多い。
ところが、こうした「朗報」を受けて『ル・パリジャン』紙が実施した一般人へのインタビューが、意外な結果になっている。「値段が下がったらもっと果物を買いますか?」との質問に答えた5人のうち3人が、「どうせ値段は下がらないのでは」とすこぶる懐疑的なのだ。25歳のフォークリフト運転手、ジュリアン・トカルスキさんの指摘は特に明快かつ手厳しい。「果物を仕入れる流通業者がマージンを稼ぐんだよ。生産者も消費者も得はしないのさ」。
ここで思い出したのが、4月29日にフランス語国際テレビ「TV5モンド」で見た、スイスの時事ドキュメンタリー「タン・プレザン」。このレポートは、スイス(特にフランス語圏)では2大スーパーチェーン(コープとミグロス)が価格支配力を徹底して行使しており、ドイツからのハードディスカウント業者(日本ではドン・キホーテみたいなのか?)に対抗するため、生産者に仕入れ価格の値下げを強引に要求していると指摘する。そして、生産者が一定の利益を上げることができる生産・流通・消費のシステムを、消費者側も構想すべきと問題提起するのである。
フランスはスイスほど商品販売上の寡占が生じているとは思えないが、やはり流通業者(フランスにもシュペルマルシェ、イペルマルシェのチェーンが各種あり)の介在によって、生産価格の低下が消費価格のそれには結びつかない構造になっているのではないか。上記インタビューは、そのあたりを消費者が案外しっかり認識していることを示しているように思える。