前途多難?選挙区割りの見直し

総選挙近しの憶測が昨年から流れ続けている日本では、結果として選挙に対する関心はかつてなく高まっていると言えるだろうが、選挙制度上(特に小選挙区制の場合)特に注目され、ときに政治問題と化すのが選挙区の区割り。フランスはある意味この件が日本よりはるかに深刻なようで、6月26日付の『ル・フィガロ』紙は、積年の課題である区割りの抜本的見直しを目指す動きがゆるやかに進みつつある様子を報じている(Redécoupage: la copie du gouvernement doit être revue. Le Figaro, 2009.6.26, p.4.)。
フランスでは、シラク政権当時の1986年に設定された577の小選挙区が、20年以上も経過した現在もそのまま維持されている。人口の変動などを考えるとこれはさすがにまずいというので、昨年あたりから区割り見直しの動きがスタート。政府原案が出され、その後コンセイユ・デタ、破毀院、会計院といった司法機関等からの代表、大学教授などから構成される諮問委員会で審議が実施された。現在はこの委員会による原案の検討結果がまとまったという状況で、一部の区割りについて政府と委員会との協議が引き続き行われた後、最終的な結論が出る予定とのこと。
ル・フィガロ』紙ではパリ市内の区割り案を大きな地図で紹介している。選挙区数が21から18に減る予定ということもあって、かなり大規模な変更が構想されているようだ。区割りが行政区をまたがる形で複雑に展開するのも興味深い。東京でも練馬区や世田谷区のように区内で選挙区が分割されているケースがいくつかあるが、諮問委員会案によれば、例えばパリ20区は3つの選挙区に分かれることが想定されている。
その他、県単位で見ると、2議席増加するところもあれば一方で1議席減になるところも。こうした区割り変更の結果、議員1人当たりの有権者数が最も多いところで、従来は平均有権者数の1.7倍以上あったのに対し、今後は1.2倍以内に収まる見込みであると言う(サン−ピエール・エ・ミクロン海外公共団体といった小規模な地域単位にも、最低1議席が割り当てられる事情があるため、日本でよく言われる「1票の重みの格差」という概念はフランスでは適用しにくい)。
それでも野党からは、こうした変更案に反対する声が多く上がっている。社会党は見直し自体に賛成しているとは言え、今回の提案は「民主主義を捻じ曲げるもの」と批判。緑の党に至っては、与党の国民運動連合社会党とがこの問題で結託していると厳しい。政治地理学にゲリマンダー(特定な政党等に有利なように選挙区割りを操作すること)という用語があるが、どうしても野党は、区割りをいじることにゲリマンダー的意図を感じてしまいがちなのだろう。その点、日本の小選挙区制に同種の批判があまり起こらないのは、不思議でもあり、また制度が比較的うまく機能しているということなのかもしれない。