苦戦強いられる郵便事業

日本では郵政民営化の見直しをめぐる議論が活発になってきているが、公的サービスとしての郵政のあり方については、ほぼ世界中で問題になっていると言えるだろう。とりわけ、自由化が決定的に進みつつある小包などと異なり、ユニバーサル・サービスの確保と引き換えに事業独占が認められる手紙やはがきといった信書郵便については、多くの国でその事業展開が岐路に立たされている。6月26日付けの『ル・フィガロ』紙は、公社形態を維持しているフランスでの郵便事業の現状や問題点、さらに展望等について改めて検討している(La situation du courier empire à La Poste. Le Figaro, 2009.6.26, p.20.)。
フランスの郵政事業体である「ラ・ポスト」の郵便部門(金融分野は子会社化されている)では、2008年の営業収益こそ前年比0.2%増の208億ユーロを確保したものの、純利益は5億2,900万ユーロと、44%の大幅減となった。今年は営業収益の方も3%の減少が見込まれている。しかしラ・ポストの抱える最大の課題は、単に会計的な問題ではあり得ない。そもそもの手紙の配達件数が急激に減少していること、つまり(世界的な趨勢ではあるが)、電子メールや携帯電話の普及をうけて、郵便事業の意義そのものが薄らぎかねない状況にあることこそが真の脅威なのである。
今年上半期の信書配達件数は、昨年同期に比べて6.3%も減少している。ジャン−ポール・バイイ総裁が「これほどの落ち込みは郵便史上かつてなかった」と告白しているように、この激減ぶりは誰にとっても予想外だったようで、ラ・ポストは、これまで今年の配達数を昨年から3%減と予測していたのを、急きょ7%減に下方修正せざるを得なくなった。
そうは言えど、企業の経営者としてはここが踏ん張りどころ。バイイ総裁は「新しいサービスを提供することで、ラ・ポストを再生しなくてはならない」と言い切る。最近開催された取締役会では、ニコラ・ルーティエ信書局長が、手紙の配達に関して、この先5年程度を見越した新しいアクション・プランを正式に提示する方向性を明らかにしたとされる。
アクション・プランはまず、今後2015年までの間に信書の配達量は30%減少するだろうという極めて厳しい見通しを示し、その上で2つの基本方針を打ち出す。
1.手紙の営業収益の40%を占める大口利用者(銀行、通信販売業者、電力供給等の公益企業など)向けのサービスに注力し、例えば集荷を遅らせるなど一層の利便性を確保すること。
2.サービスの質の改善を目指すと同時に、経費を削減すること(ラ・ポストとグループ企業全体で2億ユーロ減が目標)。
まあ言ってはなんだけど、一般論としてサービスの向上を謳いつつ、どちらかと言えば費用を減らすことに重点が置かれている感じ。例えば郵便配達は、経費に占める割合が他の業務に比べて大きいことから、特にコスト削減が検討されており、結果として「特別割引郵便以外は原則翌日配達を目指す」というサービス基準が緩和される可能性もあるようだ。
バイイ総裁は、映画や市電はかつて時代遅れのように思われたが、今でも確固たる地位を築いている、同じように手紙にも未来はあるのだ、と主張する。ただ敢えて言わせてもらえば、アクション・プランにおいて信書の未来は、大口顧客におもねることと、リストラの徹底にしか見出されていない。手紙を書く文化が急に再興するとも思えないし、やはり郵便には下り坂以外の道は残されていないのだろうか。

                                      • -

日本経済新聞』に「『Jポップ』にパリっ子夢中」という大き目の記事。詳細は直接読んでいただきたいが、アニメの主題歌から人気が出るそうで、やはりマンガ、アニメ発のスピンオフ・ヒットという感じは否めない。日本の音楽それ自体にフランスの若者を引き付ける魅力があるのかどうか。それにしても、バスチーユ広場でJポップおたくのフランス人に出会ったら、申し訳ないけどやっぱりよけて通るだろうなあ〜。