新型インフル、宗教界はどう対処するか

フランスでも1週当たり10万人以上の新規感染者が確認されるなど、新型インフルエンザは既に相当な流行を示している。こうしたなかでカトリックを始めとして、多くの信徒が集まって儀式を行うなど対人接触の機会が多い各宗教界では、それぞれの対策を開始している。カトリック系一般紙『ラ・クロワ』紙が9月8日付の紙面で、そのあたりを概観し、動向を探っているのがなかなか興味深い(Le sanctuaire de Lourdes prend la mesure de la grippe A. La Croix, 2009.9.8, p.18.)。
この記事がまず注目するのは、屈指の巡礼地として知られるルルドをめぐる最近の動き。なんでも、巡礼ツアーの主催者から宿泊施設に、「新型インフルエンザによって巡礼の中止を余儀なくされた場合、キャンセル料は発生するのでしょうか。キャンセル料が生じる時期や金額もお教えください」といった手紙が舞い込むようになったのだという。しかし、ルルドの情報センター所長を務めるカトリーヌ・アルブレック氏は、「パリ=シャルル・ド・ゴール空港の年間旅客者数は6,000万人以上、当地を訪れるのはその10分の1です。『ルルドを閉める』などと言うことはあり得ません」と明言。また、ジャック・ペリエ司教は、「多くの医療スタッフがここにいることを考えれば、ルルドは世界中でも特に安全な場所と言えます」と説明する。病を治す奇跡で知られる聖地であり、現在も充実した医療部門を有するこの地ならではのコメントと言えよう。『ラ・クロワ』にはカトリックの機関紙としての性格もあるわけだから、この記事はまずもって、「安心して巡礼してください」というメッセージを伝える目的のものなのだろう。
宗教界全般で見ると、まずカトリックは、手洗いの励行などの一般的対策のほかに、口による聖体拝領を手によるものに替える等の措置を採るよう推奨し始めている。特にパリ、レウニオン島及びヌーメア(ニューカレドニア)では、インフルエンザ流行が特に激しくなっているとして、儀式上の直接の身体接触をできるだけ避けるよう要請している。こうした推奨や要請に対する反発はほとんど生じていない由。またプロテスタントでも、新型インフルエンザ流行に伴う諸措置に対する強い反応等は見られない。
対照的なのがギリシャ正教。聖体礼儀で領聖する場合に、聖匙(スプーン)を使わないようにするか、もしくは1回ごとに聖匙を拭くようにしてはどうかとの要請に対して、反対する神学者が現れた。曰く、「こうした措置は信者を病から守るどころか、そこに由来する信仰の欠如ゆえに、かえって信者に病をもたらすおそれがある」。そして、「聖匙に対するこのような言説は、病を仲介する者のごとくにキリストをみなすものではないか」。これは激烈な論争になりそう。
その他イスラムでは、フランス・イスラム教協議会が信仰実践と巡礼とに関する2種類のパンフレットを準備中であり、また高齢者、病気がちの者、妊娠中の者及び幼小児はメッカへの巡礼を避けるべしとのWHOの推奨に言及している。要するに、日本も含め、どこの地域のどんな宗教も、新型インフルエンザにいかに向き合うのかという問いからは逃れられないということのようだ。