美術史が中学修了試験の科目になるってどういうこと

日本で「美術史」の授業と言えば、大学の教養課程、あるいは文学部の専門科目などを連想するだろう。ところが9月17日付の『ラ・クロワ』紙は、美術史が中学高校の一科目になるばかりか、中学修了証書授与試験の必須受験科目になるという話題を伝えている(Le gouvernement veut généraliser l’enseignement de l’histoire des arts à l’école. La Croix, 2009.9.17, p.9.)。ちょっと見、イメージが湧かないのだが、いったいどういうことなのだろうか。
「美術史、ひいてはアートを学ぶということは、単に美を通じて他者とその環境を知るということではなく、青少年が自信を持って己を見つめ直し、また普遍的な言語を習得するための方法を学び取ることなのです」リュック・シャテル教育相はこのように高らかに宣言し、美術史教育の意義を力説する(ここでいう「アート」には、絵画や彫刻だけでなく、音楽、建築、写真、演劇、ビデオなども含まれるそうなので、本当は「芸術史」という用語の方が適切なのかもしれないが、本ブログでは日本語での慣用に従い「美術史」と書いておく)。その意気やよし。でもそうは言っても、美術史を中高校生に教えるというその具体的な様子は、やっぱり思い浮かばない。
行政当局ですら、中学校や高校で新たに美術史の授業時間を確保する余裕はないということを認めている。その上で、ジャン−ルイ・ネムブリーニ教育省学校教育局長は、「この科目には横断的な方法を用い、美術科、音楽科、地歴科の教師に協力を求めます。例えば歴史を教えるときに、政治史や戦争についてだけでなく、主要な芸術作品にも触れてもらうようにします」と説明する。さらに、地元の芸術家に学校へ来てもらい、通常の授業時間外でワークショップを開いてもらったりもするのだそうだ。う〜む、わかったようなわからないような。
 案の定、現場では疑問と不安が渦巻いている。エクサン・プロヴァンスのある高校の地歴科教師は、「美術史教育に関する特別な指示などまだ来ていません。3年生用の新しい歴史の教科書ができましたが、美術史の位置づけが上がったということは全くありません」と実情を語る。美術教員協会のダニエル・サラマン会長に至っては、「外部の人(芸術家)が美術教師に取って代わり、教員は年々減っています。これは教育の民営化に道を開くものです」と、かなりイデオロギー的な批判を投げかけている。
 最もわからないのは、そのような状況にもかかわらず、美術史が中学修了証書(ブルヴェ)の授与試験の科目になると既に決まっていることだ。試験は筆記ではなく口頭試問の形で行われ、来年は選択制だが再来年からは必須科目になるのだという。確かに、美術史に若いうちに親しんでおくのは悪いことではないし、フランスのシステムは融通無碍なところがあるから、何となく最後には辻褄が合うのかもしれない。ただ、それにしても。
いずれ本格的に授業や試験が定着したら、もっとよく様子がわかるようになるだろうから、その日を楽しみに。