ローザンヌ駅操車場用地を州立美術館に

鉄道関係の敷地は、時代の変遷によって大規模に余剰スペースを生じ、都市再開発の対象になることが多い。文化施設に変貌するケースも見られ、例えばパリで元のオルセー駅を美術館にしたのがオルセー美術館。ベルリンでもハンブルク駅を転用して現代美術館にしている。そしてスイス『ヴァンキャトルール』紙の10月1日付け紙面によれば、ローザンヌでも同様の方式で、新たな州立美術館が建設される方針となったらしい(Le Musée des beaux-arts sera au carrefour ferroviaire du canton. 24 heures, 2009.10.1, p.3.)。
現在はローザンヌ市の中心街にあるヴォー州の州立美術館、その新美術館建設用地として白羽の矢が立ったのがローザンヌ駅そばの操車場。しかしここに候補地が決まるまでには紆余曲折があった。最初はヴォー州北部、ヌーシャテル湖に近いベルリーヴが候補になったものの、反対運動が起き、昨年11月30日の州民投票で否決の憂き目に。州は再び建設場所の選考に迫られ、今度は公募方式により11か所がエントリー。その後選定委員会の一次選考で4か所、二次選考で2か所まで絞られた結果、州参事会の全会一致という形でどうやら決着したようなのである。
「新美術館を操車場用地に建設することにより、交通の要としてのローザンヌ駅周辺の整備と発展が加速することが期待されます」と、フランソワ・マルタレール州公共事業担当参事はこの決定を評価。さらに、「スイス国鉄ローザンヌ駅の増大する乗降客への対応を迫られており、駅周辺の整備は国鉄にとってもメリットになるでしょう」と述べる。もう一つの最終候補地であった現在の美術館の隣接地については、ヴォー州知事パスカル・ブルーリ氏が「多くの問題が生じたり、反対の声が上がったりする可能性があると判断しました」と語る。やはり中心街の再開発というのは、予期しない反発があり得るものなのか。
ただ収まらないのは、公募に応じたものの落選した候補地。特に、やはりヌーシャテル湖近くに位置するイヴェルドンと、ローザンヌの西10キロにある市街地モルジュは、一次選考には残っていただけに、がっくりすると同時に納得できない気持ちもあるようだ。モルジュ市長であるヌリア・ゴリト氏は、「私たちは今回の公募に大変力を入れ、お金もかけてきました。ローザンヌに決めるというのが暗黙の了解だったとは考えたくないのですが」と不満を漏らす。要はプロジェクトの優劣より立地が先にありきで、出来レースだったんじゃないかという疑問だ。もっとも一方のイヴェルドンでは、自分たちの計画もある程度は評価されたわけだし、と納得しようとする意見もあるのが救い。
公募から決定まで、1年以下で候補地選定にこぎつけた点にも賛否がある。反対意見に乱されることなく決定を目指すという基本方針があったようで、ピエール・ケレル州立ローザンヌ美術大学学長は、「州政府の決定に至るこれほどの迅速さを評価します」と絶賛。一方イヴェルドン市長のダニエル・フォン・シーベンタール氏は、「州参事会は選定委員会の意見を考慮せず、拙速に決定を下してしまいました」とはっきり批判している。一般的には速やかに決定できたことは良しとされるのだろうが、否定的な見解が出るのも事の性格上やむを得ないのだろう。
今後操車場を美術館に作り変えるための本格的な調査が開始され、開館は早くても2014年とのこと。7,000万から8,000万スイスフラン(1スイスフラン=約85円)の費用がかかる大プロジェクト、さてどのような完成後の姿を見せてくれるだろうか。

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遅ればせながら、下高井戸でオリヴィエ・アサイヤス監督『夏時間の庭』を見る。著名な画家であった大叔父の遺品を守り、田舎の古い邸宅に暮らし続けた母。その母がなくなり、日々の生活のなかで使われ続けてきた、美術品としての価値をもつ多くの遺品が、オルセー美術館に寄贈され、あるいは売却される。後にオルセーに展示された机や棚を見て、寄贈の決断を下した息子は「まるで動物園に入れられているみたいだ」とつぶやく。暮らしと切り離された「美術品」の哀しみ、そんな印象が強く残る映画。オルセー美術館の開館20周年を記念した映画製作企画の成果としては、実に皮肉なことだと思うのだが。