ロレックス社の新工場建設は不況下の一縷の希望?

どうも当方とは縁がなさそうなのが残念だが(!)、スイスの高級時計の代名詞と言えばまずロレックス。10月1日付の『ヴァンキャトルール』紙は、そのロレックス社が不況のさなか、新工場の建設に踏み切ったと報じている(Rolex affirme dans la pierre sa confiance en une reprise. 24 Heures, 2009.10.1, p.9.)。さすが高級時計、さすがロレックス、不景気知らずということ?
ロレックスの本拠地は、スイス北西部、ベルンに近くドイツ語・フランス語の二言語併用都市であるビエンヌにある。 このビエンヌで9月30日に開催されたロレックス新工場の定礎式には、スイス連邦参事会経済省担当参事(いわゆる経済相)のドリス・ロイタルト氏、ビエンヌ市長のハンス・ステックリ氏など多数の来賓が出席、会場はブルーノ・マイヤー社長を囲んで華やかな雰囲気に包まれた。
新工場は地上4階地下3階、ガラスに覆われた建物。現本拠地の隣りに建設され、現在17万平米の施設は40万平米にまで拡大する。2011年完成を予定し、2012年にはこれまでビエンヌ市内各所に散らばっていた部品製作拠点が新工場に集められることになっている。部品を組み立て時計を完成させる中途の過程は、新しい拠点では大幅に自動化され、一貫工程が実現する予定と言われる。
前社長であったパトリック・ハイニガーの悲願であったとされる一貫工程の新工場。定礎式はまず自賛の言葉から始まった。マイヤー社長は、「新工場は『秀逸さ』の目に見える形でのシンボルであり、それが我々の存在意義ともなるのです」と宣言。「この地域(ビエンヌ)で変わりなく生産を続け、従業員に理想的な労働環境を提供することの証になります」とも述べている。実際にはジュネーブの拠点で働く従業員がビエンヌの2倍(約4,000人)なのだが、スイスの中心都市圏から離れた中堅都市としてはもちろん貴重な地元企業。ステックリ市長は「これでビエンヌは時計工業の中心地であり続ける」と喜びをあらわにした。
今回の工場建設の投資額は、高級時計企業一般の秘密主義の例に漏れず明らかにされていないが、2億5,000万スイスフランとも4億スイスフランとも噂されている。こうした巨額投資をこの経済危機下に惜しまないことに対しては、ロイタルト連邦参事が「勇気ある行動で、『豪華さのシンボル』としてのスイスブランドの価値を高めるのに貢献している」と評価。確かに、緊急経済対策を今年も続けざるを得ないスイス連邦政府からは、ロレックスは希望の光に見えるのだろう。
実はロレックスに限らず、ショパール、ヴォーシェ、スウォッチといった企業が新工場の建設を予定しているそうで、さすが高級時計業界には不況の風も届いていないかのように見える。ただここまで明るいコメントが続くと、ちょっと疑いの気持ちも生じないでもない。マイヤー社長もさすがに「(現在の経営状況の下で)期限付契約の従業員を契約更新するというわけにはいきませんでした」とは述べているが、そのような職員がどのくらいいたかについては明かしていない。光があれば闇もあり、と考えてしまうのは、少し意地悪かもしれないけれど。