レストランちょっといい話

10月7日付の『ル・ソワール』紙が、あるレストランについてコラムのような記事を載せている。ベルギーのレストランが、スローフード的なコンセプトでニューヨークに開店し、成功するまでの物語だ(Rouge Tomate. Le Soir, 2009.10.7, p.2.)。
レストランの名前は「赤いトマト」。ブリュッセルの繁華街の一つであるルイーズ大通りに、2001年にオープンした。この店の売りが、名前にあるトマトの新鮮さをシンボルにして、「食べて健康」というコンセプト(ラテン語の頭文字を採ってSPEと呼ぶ)を前面に出したこと。地場産の新鮮な野菜、漁獲方法に配慮の行き届いた魚、さらに安全で環境に優しい飼育をした肉などを素材にして、細心に仕上げた料理を提供する。いわばロハスとかいう流れに近いビジネスモデルで、スタイリッシュなデザインも相まってそれなりに人気を集めたらしい。
ここで創業者であるエマニュエル・フェルストラエテン氏が踏み出したのがニューヨークへの進出。パリやロンドンや東京からNYに展開というのはよくあるけれど、ブリュッセルからビッグアップルへ、レストランで1,000万ドルの投資というのはそんなにあるもんじゃない(と『ル・ソワール』紙が言っている)。ジャンクフードの都にSPEを掲げて乗り込むのはいいけれど、群雄割拠の都で果たして生き残れるのか。しかもタイミングは最悪。店舗の引渡しを受けた2008年9月15日は、ちょうどリーマン・ブラザーズの破産が宣告された日だった。以来不況は急激に深刻化し、「赤いトマト」ニューヨーク店も10月28日に開店したものの、席数も従業員も削減を余儀なくされた。
ところがSPE、別名「農場から食卓へ」とも言われるコンセプトが口コミで受けて、あっと言う間にブラッド・ピットラルフ・ローレンレネー・ゼルウィガーなどが訪れる有名店に。そして開店からわずか11ヶ月で、ミシュランの一つ星を獲得するに至った。(ちなみにミシュランのベルギー2009年版では、同店は星どころか、そもそもリストにすら見当たらない。なぜ?)この快挙にもフェルストラエテン氏は落ち着いていて、「1周年の良い記念になりました。ちょうど収支のバランスが取れるメドもつきましたし」と言っている。とりあえず順風満帆。
ふーむ、確かに佳話ではある。ただ、なんとなくふわふわっとしたイメージの記事という感じもするなあ。まあコラムだから良いのかな。ベルギーから出てNYで人気にというサクセスストーリーが記者も嬉しかったのだろう。これからブリュッセルかニューヨークに行く方は、いったいどれくらいのものか、よろしければお試しを。