市民の景気意識はいまだ悲観的

最近はフランスをはじめ、ヨーロッパ全体で経済の回復が進んでいると言われる。企業を中心とする景況感が、金融危機以前の水準近くまで改善している(『日本経済新聞』2009年10月19日夕刊)し、株価指数であるCAC40が上昇傾向にあるなど、好調な動きを示す指標も多い。しかし大方のところでは、(やはりと言っていいか)景気回復はあまり感じられていないようだ。10月13日付の『レゼコー』紙では、アンケート結果をもとにフランス国民の景況感を分析している(Crise: les Français ne voient pas le bout du tunnel. Les Echos, 2009.10.13, p.2.)。
調査会社であるBVA社が15歳以上の国民を対象に行った世論調査によれば、「フランスは経済危機から間もなく抜け出すと思いますか」という質問に、「そう思う」と答えたのは35%。「そうは思わない(今後事態はもっと悪くなる)」が60%にも及ぶ。
悲観的な見解が続く大きな原因の一つは失業率の高止まり。アンケートでも、働いている企業で社員解雇や雇用調整が行われたとの回答が32%、一時帰休や操業停止があったとしたのが26%にのぼっていて、事態の深刻さを物語る。また家計の購買力も下がったかせいぜい横ばいという意見が多く、これも国民一般が経済が回復しているとは実感できない大きな要因となっている。BVA社のゲール・スリマン常務は、「アメリカやイギリスに比べて、フランスにおける危機の影響は相対的には小さかったのですが、にもかかわらず人々は将来に対して非常に悲観的なようです」と述べる。
こうした見方を反映して、経済政策に対するフランス人一般の見方は非常に厳しい。サルコジ政権の経済対策については、「無秩序」との評価が38%、「有効でない」が27%で、「適切」17%、「安心できる」16%を大きく上回る。とりわけ「無秩序」、すなわち危機に即応する政策が打ち出せていないという見方が、昨年10月から7ポイントも上昇しているのが深刻だ。最近数ヶ月に採られた対策に関しても、「危機の影響を最小限にする方向に進んでいない」(60%)、「フランス人一般の関心事に合っていない」(70%)「従業員、経営者及び株主を同じく益する方策ではない」(71%)といった拒否的な見解が続いている(最後の意見はかなりフランスっぽいかも)。
景況感と関連して、BVA社はフランスの郵政公社、ラ・ポストをめぐる議論についても調査している。それによれば、労働組合などが企画して最近実施され、200万人が投票したと言われる全国規模の擬似「国民投票」の結果を尊重すべきだとする意見が59%。投票の結果はラ・ポストの株式会社化を否とするものが多数を占めており、スリマン氏は「フランス人の公共サービスに対する愛着の表れ」と論評している。これもまたフランスらしい反応というべきで、郵政民営化の行方が不透明になりつつある日本と比較するのも興味深いかもしれない。