若者はよく本を読む、とはいうけれど

「子ども・若者が本を読まない」という言説に対する評価は難しい。ある種の常套句に過ぎないと言ってしまうこともできそうだし、昨今のメディア事情を考えれば、本離れが起きるのは当然とも考えられる。教育的な見地からは、確かに子どもたちの読書習慣は薄れた、だから現場では「朝の読書」などの取り組みをしているといった声も聞こえてきそうだ。まあ日本はそんな感じとして、フランスの事情はどうか。11月25日付の『ラ・トリビューン』はいかにも経済専門紙らしく、もっぱら経済的・産業的立場からこのテーマにアプローチしている(Les jeunes toujours plus mordus pour les livres. La Tribune, 2009.11.25, p.10.)。
11月25日から6日間、パリの東郊外モントゥルイユで開催される「若者向け書籍雑誌フェア」に合わせて掲載されたこの記事はまず、「若者はますます本を読むようになっている」と断言することから始め、その証拠を統計で示している。曰く、フランスの若者が読む書籍は15年連続で増えている、子ども・若者向けの本の販売冊数は1995年には全書籍販売冊数の9%だったが、2007年には19%にまで伸びている、と。今や販売される本の5冊に1冊は若者向け。売上高で見ても全体の11.6%を占めるまでになっている。
なぜ若者向けの本は売れるのか?記事が示す理由は極めてシンプルで、「メガヒット作が続いているから」という点に尽きる(このあたりが「経済的・産業的」な所以)。1997年から2007年までは、おなじみ『ハリー・ポッター』シリーズ全7巻(ガリマール社)が相次いで発売され、2,400万部を売り上げた。続いてステファニー・メイヤー作、『トワイライト』シリーズ(アシェット社)が2005年以降これまでに4巻出ており、合計430万部のベストセラーとなっている。特に映画との相乗効果(メディアミックス)で売上げが伸びるらしく、この冬は『トワイライト第2章・誘惑』(邦題『ニュームーン/トワイライト・サーガ』)の封切りに注目が集まっている。
フランスの若者向け書籍が少数の出版社の寡占市場になっていることも大きな要素。もともとフランスの出版業界は寡占の傾向が強いとされる(『[増補版]事典・現代のフランス』253〜255ページ参照)が、特に子ども・若者向けは12社で3分の2のシェアを占めている。昨年10月から今年9月までの販売冊数ランキングでは、アシェット社が『トワイライト』のヒットで1位を獲得(17%)。以下ガリマール社、バヤール社と続いている(注:3社とも青少年部門の成績)。そうした大手でヒット作が出ていれば、出版市場そのものが好調という評価になるわけだ。
結局、『ラ・トリビューン』紙の受け止め方としては、若者はよく本を読むということになっているわけだが、これを日本に置き換えた場合、一部の超ベストセラーに支えられる状況を指して「児童書出版は好調」という判定になるだろうか?フランスほど寡占市場でもなく、多くの出版社では売り上げ不振というのが現実であるなら、やはり「児童書が売れない」という結論になりそうだし、何より教育関係者が「低俗なベストセラーは子どものためにならず、そもそも読んでるうちに入らない」などと言い出しそう。フランスでも大手出版社の見解はともかく、先生や図書館員などの意見も聞いてみたい気がする。