シャルロット・ゲンズブールの新境地

失礼ながら、セルジュ・ゲンズブールジェーン・バーキンの間に生まれた娘の芸能活動というと、これまでどうしても「親の十四(四十九?)光」という影がつきまとっているように思われてならなかった。そんなシャルロット・ゲンズブールも御年38歳。12月6日付の『ジュルナル・ドゥ・ディマンシュ』紙は、彼女が俳優と歌手の両面で新たな活躍を見せ始めている様子を伝えている(Raconter ce que j’avais de plus intime. Le Journal du Dimanche, 2009.12.6, p.38.)。
今冬、デビュー以来3作目のアルバムを発売し、ほぼ同時に新作映画がフランスで封切になったシャルロット。新譜「IRM」はプロデューサーにベックを迎え、ロックやファンク、ワールドミュージックなど様々な要素を取り混ぜた作品になっているが、そのなかで彼女は、これまでのどちらかと言えばはかなげな雰囲気を払拭し、柔らかいが同時に力強さもある、伸びやかな声を聞かせているのだという。 映画の方はパトリス・シェロー監督作「迫害」。人気俳優ロマン・デュリスを相手に愛憎劇を演じるシャルロットを、シェロー氏は「彼女について驚くべきことは、ここに来て突然『大人の女』が現れたような印象を受けることです」と絶賛している。
1986年に「なまいきシャルロット」に主演女優として登場してから20年余。夫であるイヴァン・アタル監督の作による「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」(2001年)、「フレンチなしあわせの見つけ方」(2004年)あたりはいかにも楽屋ものという感じで、いかがなものかと印象が拭えなかった(だったら見るなってか)。そんな彼女の転換点になったのが2007年末の水上スキー事故。脳内出血で緊急手術を受けるという危機的な状況を超えたことが、来し方を良い意味でふっきる契機になったように見えるから、人生何がどうなるかわからないものだ。ラース・フォン・トリアー監督の問題作「アンティクライスト」で今年のカンヌ映画祭の最優秀主演女優賞を受賞し、一息つく間もなく年内の新作公開、新譜の発表となった。
顔立ち、とりわけ尖った顎が両親の面影をいかにも彷彿とさせるのが彼女らしいが、これからはますますの飛躍が期待できそうだ。ただ、近作があまり日本で公開されない傾向にあるのが、少し気になるところではあるけれど。
(追記)アルバム「IRM」は、1月下旬にも日本発売だそうです。国内盤も出るそうです。これもベック効果ですかね。
(さらに追記)拙ブログを読んでくださった方から写真を送っていただきました。「迫害」の街頭広告。フランスではこの広告が風景に溶け込んでいてなかなか良い感じなんですよね。