冬はここでも鍋料理が人気

チーズフォンデュと言えばスイスの名物料理としてよく知られているけれど、同じフォンデュでも中国風というのは聞いたことがなかった。どうやら「火鍋」と言われているもののスイス版らしく、日本のガイドブックでも以下のように書かれているから、ご存知の方も少なくないのだとは思うが。
フォンデュ・シノワーズ 薄くスライスした肉を、鍋に熱したコンソメスープにくぐらせて、さまざまなソースや薬味で食べる。スイス風しゃぶしゃぶといった感じで、日本人の口に合う。」(『地球の歩き方 スイス’08〜’09』523ページ)
なるほどそういうものですか。ちょうど季節も真冬で鍋にはうってつけ。12月23日付の『ル・タン』紙はかなり詳しくこの料理について解説、分析しており、面白く読むことができた(La fondue chinoise, si suisse. Le Temps, 2009.12.23, p.3.)。
記事によれば、スイスでの「火鍋」の発端としてはそもそも第2次大戦後、チーズフォンデュ用の卓上コンロが各家庭に普及し、食卓の中心に鍋を置く食事のスタイルが始まったことが挙げられる。さらに冷蔵庫が商店や家庭で一般化した60年代、70年代ぐらいに料理として定着。現在ではクリスマスや大晦日の代表的メニューと言ってよいほどに浸透しており、少なくとも20%のスイス人は年末年始に鍋を囲むとの調査結果も出ている。ハレの日の食事としてそれなりに華やかであると同時に、意外とヘルシー(油で揚げるミートフォンデュよりもローカロリー)なのも現代的に評価されているようだ。
ただ、外来メニューの常で、本場中国の火鍋とスイスの中国風フォンデュはいわば似て非なるもの。中国では辛いスープなどを鍋で煮立てて具を投入し、スープと一緒にいただくのが標準らしい(日本にも専門店がある)のに対し、スイスではブイヨンを使ったコンソメスープで煮た後で、(『地球の歩き方』の説明と少し違うが)多くの場合マヨネーズベースのソースにつけて食べるのだという。まあ日本人としては、中国風という思い込みは捨てて、はじめからスイス料理と思っていただくのがよろしかろう。
記事には一口アドバイス的に、ソースを工夫するのも一興(トマトソースなど)とか、肉はなじみの肉屋で新鮮なものを入手すべし、スーパーのは成型肉の可能性大で勧められないなどとも書かれている。さらに日本の鍋料理についても言及があって、だし汁(魚ベースのブイヨンという注あり)のなかで肉、魚、野菜を煮た後で、おろし醤油、ポン酢、ごまだれなどで食するとの説明。書きぶりからしても、こちらはスイス人にとってまだまだエキゾチックなイメージが強いようだ。いずれにせよ、スイスに行って鍋で年越しできるなんて、意外な食の東西交流という感じで嬉しい限り。