特集「フランスの田舎町」

新年を迎えても、相変わらず「ふらんすに行きたしと思えどもふらんすはあまりに遠し」などと心のなかでつぶやきながら、寝転がって雑誌をめくっている。
フィガロ・ジャポン』1月1日・15日合併号の特集は「フランスの田舎町」。いくらでもあるフランスの田舎のなかで、今回はノルマンディとブルターニュに対象を絞って、小さな町村の印象を紹介しようという内容。
隣り同士の地域なので同時に取り上げたのかもしれないが、実は両地域のイメージはかなり異なっているような気がする。まずパリからの距離感が違う。ノルマンディなら鉄道を使っていくらでも日帰り旅行が可能なのと比較すると、ブルターニュは急行で片道4時間以上、どうしても泊まりがけになるのではないか。自分もノルマンディには行ったことがあるが、ブルターニュまではまだ足を伸ばせていない。
ノルマンディに出かけたときは、まず鉄道でル・アーヴルまで約2時間の旅。市内のアンドレ・マルロー記念美術館でモネやデュフィの絵画を楽しんだ後、バスでセーヌ河口のノルマンディ橋を渡り、カルヴァドスの海岸リゾートを巡りながら、県庁所在地であるカーンを目指した。
バス旅行の主たる目的は、プルーストが長期滞在したカブールを訪れることにあったので、オンフルールやドーヴィルといった他の町は、時間の都合で車窓からの観光にせざるを得なかった。『フィガロ・ジャポン』ではオンフルールが取り上げられていて、改めて写真で見る港町の色彩の鮮やかさに嘆息させられる。多くの印象派絵画の題材となったオンフルール港、映画『男と女』に描き出された面影を今も留め、映画祭も開催されるドーヴィルには、いつの日かまた訪れたいと思う。
一方ブルターニュは、ケルトの民俗とそれに基づくブルトンの地域文化を今に残す土地。饗庭孝男氏が、
「汽車がナントを出てしばらくゆくと、次第にブルターニュ地方らしい低い丘と潅木がつづき、ところどころ岩が露呈していて海からの風が強く、黄色い『はりえにしだ』の木々が斜めになったまま花を咲かせている。古くからの青灰色の屋根に石づくりの家は、近来、少なくなったとはいえ、ところどころにいまもよく見かける。さびしい小さな沼や川がつづき、それが入江に注いでいる。」(『フランス四季暦 春から夏へ』東京書籍、1990、140〜142ページ)
と書いているように、フランスの西の果てらしいやや寂しげなイメージ(悪い意味ではなく、ちょっとメランコリックという感じ)があるような気がする。まあイメージには偏りがつきものだし、『フィガロ・ジャポン』が取り上げているいきいきとした風景、人々もブルターニュの一つの姿ではあろう。ぜひ車で半島を一周し、地域全体を堪能してみたいものだ。