通りの名前にしたい有名人

ヨーロッパの都市の道路に、大通りから路地に至るまで(広場なども含めて)名前がついていることはご存知だろう。なかには人名がつけられている道路もある。多いのはやはり歴史の彼方にいる人物名がついたケースであろうが、近現代を生きた人が何かの折に道路の名前になることも。言うまでもなく大変名誉な話である。
パリの街中で新たに人の名がついた通りができるとしたら、誰の名前がよいか?そんなアンケートが、『ル・フィガロ』紙付録の週刊エンタメ情報誌『フィガロスコープ』の読者を対象に、ネット上で実施された。1月27日付の本紙記事(Une rue pour Claude Lévi-Strauss. Le Figaro, 2010.1.27, p.30.)によれば、堂々1位に輝いたのは去る12月に死去した人類学者、クロード・レヴィ−ストロース。なんと全体の約30%の票を集めたそうで、構造主義創始者の一人として、世界の思想界に大きな影響を与えた氏への畏敬の念が強いことを感じさせる。学者がこういうランキングでトップになるあたり、やはりフランスの文化的土壌のなせるわざというべきか。
アンケート第2位は毛色が随分変わり、フレンチ・ポップスの大立者セルジュ・ゲンズブール。モードの帝王ことイヴ・サン−ローランが後に続いている。もっともこの2人については、生涯を描いた映画の公開(ゲンズブール)、収集美術品の大規模な競売(サン−ローラン)といった時の話題があって、順位を押し上げたという見方もあるようだ。その他では、フランソワーズ・サガンモーリス・ベジャール、そしてまだ存命ながら、ジュリエット・グレコやヤニック・ノア(元テニス選手、現歌手)などの名前も挙がっている。
記事によれば、アンケートトップの3人のうち本当に道路名になる可能性があるのはゲンズブールだけではないかとのこと。ただその論拠は、パリ18区にジャンゴ・ラインハルト(ジャズミュージシャン)の名を冠した広場ができた最近の事例があるので、音楽関係者については実現の目があるのでは、というかなり適当なもの。ゲンズブールには毀誉褒貶あるし、どうせならやはりレヴィ−ストロース通りの方が、外国からの観光客の注目も集めそうでよいように思うけれど。

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ピエール・シトロン(遠山一行訳)『クープラン』(白水社、1970)からの一節。
クラヴサンは慎み深く、透明で、節度をもち、純粋で、陰影に富んだ楽器であり、荒々しい音の世界をいっさい忌避するのである。人知れぬ思いを内に秘めた叙情的な心、あるいは鋭い観察と夢みる瞑想、イロニーと優しさに向かう心のために作られた楽器である。」(133ページ)
クリストフ・ルセが演奏する「フランソワ・クープランクラヴサン曲集」(CD11枚組)を寝しなに聴く。一日の緊張をほぐす穏やかなひととき。もっとも、たいてい途中で眠りに入ってしまい、終わりまで聴くことが少ないのが、この楽しみの行き届かない部分ではある。