地方選、棄権の多さをどう見る

日本の新聞でも伝えられているが、フランスの地方圏議会議員選挙(約1,900人の議員が選ばれる統一地方選挙)の結果は、政権与党(国民運動連合)の敗北、社会党などの躍進などと報じられている。一方特に注目されたのが投票率の低さ。2回あった投票のどちらも棄権者が殊の外多かったと言われる。3月15日付『ル・パリジャン』紙は、投票当日に実施した世論調査を分析し、約54%の選挙民が棄権した第1回投票について、その背景に迫っている(Les raisons d’une abstention record. Le Parisien, 2010.3.15, p.8.)。
この選挙で棄権した人に理由を尋ねたところ、「自分の生活が変わると思えないから」29%、「我が国の状況に不満を表明するための手段として」29%、「政治に興味がないから」28%などが回答上位。66%の選挙民はそもそも今回の選挙に関心がなかった(「全くない」「ほとんどない」の合計)という別の調査結果と合わせて考えると、政治不信に由来する政治への無関心、そして(政権与党による)現在の政治に対する不満という2つの要因が際立って浮かび上がるように思われる。調査を実施したCSAオピニオン社のジャン−ダニエル・レヴィ氏は、「選挙戦で示された政治なるものの姿は、有権者が納得できるものではありませんでした。あらゆる論戦が時代遅れと見られてしまったのです」とかなり厳しい評価をしている。
一方調査によれば、投票した人の32%が「現在の大統領や政府のやり方に不満を表明する機会として投票した」と答えている。本来これは地方選挙であって、直接国政への意思を表すものにはなり得ないことを考えれば、32%というのはかなり大きな数字だ。もっとも、フランス地方行政における地域圏(région)がまだ位置付け不明確で、選挙の争点もはっきりしないというあたりも背景にあることは容易に推測できる。
このあたりを踏まえ、政治学者ロラン・カイロル氏の見方はレヴィ氏とは少し異なっている。カイロル氏は、棄権率が高いことは地域圏議会議員選挙、ひいては地域圏議会そのものの曖昧さ、人々からみた存在感の希薄さから主に説明すべきであって、国政への態度表明を軸に見るべきではないのではないかと考えている。また、今回の選挙では棄権率よりも左派が圧勝したことを重視するのが良いだろうとも指摘している。まあ論者によって選挙結果の見方が異なるのは当然だし、なにせ第1回投票結果の速報に基づく論評であるから、今後の政治動向とも関わりながら、評価が次第に固まっていくものと思う。
それにしても、「政治不信」という概念が、どうも洋の東西を問わないものであるらしいことは確か。多くの人々に信頼される政治を行うことは、理念はともかくやはり容易なことではない。