新美術館にロレーヌの期待は熱く

フランスのいわゆる三大美術館のうち、現代芸術部門の収蔵、展示を担うポンピドゥ・センター。その分館がロレーヌ地域圏にできたという報道は日本の新聞にも出ていた(と思ったら、印象派を特集している雑誌『カーサ ブルータス』6月号にも書かれていた)が、地元の期待には熱いものがあるようだ。5月11日付『ラ・クロワ』紙が詳しい記事を載せているので、取り上げてみる(Pompidou-Metz suscite tous les espoirs en Lorraine. La Croix, 2010.5.11, pp.18-19.)。
首都の東方約300キロ、ロレーヌ地域圏の中心であるメッス市に、パリの美術館のアネックス的なものを作るのが決まったのは2001年。膨大な収蔵物を常時展示できない悩みを抱えるポンピドゥ・センターの次期構想が、国土計画上の地方分散の流れと一致したことで、パリから離れた場所に新館を建築することに。ドイツやルクセンブルクに近くヨーロッパの交差点的な性格があり、TGV停車駅のすぐ前に敷地(旧貨物駅)が確保できるメッスが、モンペリエやリールといった対抗馬をおさえて建設地に決定した(実は、当時のポンピドゥ・センター館長、後の文化相であるジャン−ジャック・エヤゴン氏がメッス出身だったことが大きいようだ。決定過程はほんとに公正だったのか?)
建築家としてコンペに優勝した坂茂氏とジャン・ドゥ・ガスティーヌ氏を迎え、一見して人目を引くカーブを描いたユニークな屋根の建物、高さ21メートルのホールと3つのギャラリーを持つ現代アートの美術館、ポンピドゥ・センター・メッスが完成。総建築費7,000万ユーロの60%強を負担した市をはじめ、地元財界などは早くも観光や経済活性化といった「美術館効果」に大きな期待を寄せている様子。スペインのビルバオ市にできたグッゲンハイム美術館、イギリスのテート・リヴァプールなどの成功例が念頭にあるらしい。
ただ、他国の事例を見ると、都市再開発や諸施設の整備(国際会議場、オフィスビル、ショッピングセンターなど)が美術館と連動することが成功の大きなカギになっている。メッスの場合、似たようなプランはあるものの進捗は遅れており、今のところは美術館の脇に空地が広がっている状態。開館が呼び水となって周辺の開発が進むかどうかが、これから10年ぐらいの単位での課題になるだろう。
この美術館は当面独自のコレクションを持たない予定で、パリのポンピドゥ・センターとは別組織、別会計なれど、展示品の面では同館を中心とした他の美術館からの借用ですべてまかなうことになる見込み。「パリで展示できない残り物が回され、名画はメッスにはやって来ないのでは」との揶揄も聞こえる中で始まる開館記念展のタイトルが「名画とは何か?」というのだから、なかなか挑戦的ではあるのだが、いずれにしても何年かのうちに館としての個性を定着させられるかどうかが、目標年間来館者数を25万人とおくポンピドゥ・センター・メッスの試金石になる。そしてそれは、2012年にも開館が予定されるルーヴル美術館ランス分館(ノール−パ・ドゥ・カレー地域圏)などの行方にも少なからず影響を与えるのではないだろうか。