温暖化でどうなる発泡ワイン

やや天候不順気味ではあるが、初夏の陽光が眩しい季節。こんな時期は少し冷やした発泡ワインなどいただくのが楽しいかも、と思いながら『ル・フィガロ』紙を見ていると、さすがは本場、5月13日付でワインと環境問題の関連について書かれている(Le réchauffement climatique inquiète la Champagne. Le Figaro, 2010.5.13, p.28.)。
記事のメインテーマは気候温暖化。近年は科学的、社会的な話題というだけでなく、日々の暮らしの中でも、酷暑や暖冬という形で気候の変化が感じられるようになっている。当然、気候変動の影響はフランスのワイン生産地にも及んでいて、今となってはこれまでのワインづくりの手法や常識が必ずしも通用しなくなっているようなのだ。
まず発泡ワインの代表格、シャンパンを生み出すシャンパーニュ地方。17世紀以前は赤ワインの産地であったシャンパーニュは、1650年にピークを迎えた小氷河期の影響を受け、白ワイン生産に転向。しかも採れる葡萄は糖度が低く酸味が強いもの中心になったので、最初の発酵の後で糖分を加え、壜内での二次発酵により発泡させるという手法が採用された。こうして作られる発泡ワインの製法を、ドン・ペリニヨンをはじめとするベネディクト修道僧や、その後の酒造家らが洗練させていった結果、現在のシャンパンがあるのだと言われている。
最近の気候温暖化は、シャンパーニュの酒造家には好都合な面が多いらしい。葡萄の出来の良い年が続くようになり、かつてのように様々な年のワインをブレンドすることなく、特定の年号入りのシャンパンが安定して作れるようになった。有名なモエ・エ・シャンドン社のワインセラー長であるブノワ・グエ氏は、「シャンパンがこれほどまでに偉大だったことはかつてありませんでした」と絶賛の声を上げている。
一方、フランスの他地方で発泡ワイン作りに携わっているところでは、困難に直面しているケースもある。例えば、パリから南西に200キロ、トゥール市近郊に位置し、ロワール川流域の代表的なワイン産地であるヴーヴレー。温暖化に伴って葡萄の糖度が上がり、加糖して壜内二次発酵させるという手法が使いにくくなってしまった。そのため、果実に含まれる糖分を残したまま二次発酵に移るという方法を採用。糖分が強すぎると発酵によって壜が割れてしまうし、少なすぎると発泡しないというバランスの難しさはあるが、古くはローマ人も用いていたという田舎製法とも古代製法とも呼ばれる手法で、なんとか製造を続けている。
ヴーヴレーの生産者の中でもリーダー的存在であるドメーヌ・ユエのノエル・パンゲ氏は、「もう(通常の発泡ワインよりかなり弱発泡性の)2.5気圧のワイン一種類に賭けています。一番微細で複雑なワインだと思っています」との意気込みを語る。シャンパンと同レベルの発泡ではなく、ある意味もっとなめらかなワイン。パンゲ氏と同様の方向を模索する酒造家も少なからずいて、ここでのワイン品評会には、通常の発泡ワインに加え、弱発泡もの、辛口や甘口など様々な白ワインが並び好評だった由。生産者がそれぞれ作る多種類のワインを競わせることで、気候変動などにも柔軟に対応できる強い産地であることを目指しているとでも言えようか。
温暖化でワイン造りにますます自信を深める地方があれば、あらゆる工夫をこらして生き残りを目指す地方もある。発泡ワインひとつとっても、時代の移り変わりを乗り越えようとする産地の挑戦は力強く、興味は尽きない。