パリ市が打ち出すローラン・ギャロス改修計画

今はちょうど全仏オープンが盛況のうちに幕を閉じたところ。会場であるローラン・ギャロスはパリ市内(16区)にあり、ブーローニュの森に隣接していて、ウィンブルドン全米オープンのフラッシング・メドウズと比べると都心に近い好立地と言えよう。ただ難点は手狭なこと。日本の一部報道にもあるように、かねてから郊外への移転が取りざたされてきたが、このたびパリ市が大規模な改修計画を打ち出し、全仏オープンの引き止めにかかったという。5月19日付『ル・フィガロ』紙は、プランの概要、長所と短所、今後の展望などを解説している(Le Projet de la Mairie de Paris pour éviter le déménagement de Roland-Garros. Le Figaro, 2010.5.19, p.14.)。
改修計画のメインは、現在のフィリップ・シャトリエ・コート(約15,000人収容)、スザンヌ・ランラン・コート(約1万人収容)の両メインコートの改築と、新たなコートの設置、そしてプレスセンターや会議場などの整備。収容3,000人規模のコートを2面(うち1面は最大7,000人まで入る)新設し、フィリップ・シャトリエには開閉式の屋根をつけて、雨天時の対応を可能とする。さらにスザンヌ・ランランについても、15,000人規模の屋根付きコートへの全面改装を検討するとしている。
マスコミなどに対応するセンター施設は新たに2か所整備。1つはブーローニュの森側の空地を利用する。これら一連の改修によってローラン・ギャロスの総面積は8ヘクタールから13ヘクタールに広がり、他の世界レベルの大会会場の水準(16〜20ヘクタール)に多少とも近づくことになる。
計画のもう一つのセールスポイントは、環境に最大限配慮していること。パリ市役所の市長室長ニコラ・ルヴェル氏は、「環境面で非常にチャレンジングな提案になっています。(ブーローニュの森の一部を活用するにもかかわらず)1本たりとも木を切り倒すことはしません」と胸を張る。ヴェルサイユを筆頭に、エヴリ、ゴネス、マルヌ・ラ・ヴァレーといった移転候補地の名前が次々とあがってくるに及んで、パリ市も今回の計画には相当力を込めたようだ。
もっとも『ル・フィガロ』紙は、80年以上の伝統を持つローラン・ギャロスの意義は認めつつ、現在の施設の拡張と改修だけでは根本的な限界もあるのではないかと疑問を呈している。他国の主要なトーナメント会場に比べると、新装後でも引き続き、キャパシティや施設の先進性で見劣りがするのは事実。6月9日の『日本経済新聞』夕刊の記事も、6万人を一挙に集客できるヴェルサイユ宮殿の隣接地への移転が現実味を増していると報じている。改修か移転か、最終的な判断は来年2月のフランステニス連盟総会で下されることになるが、方向性が定まるまでにまだ紆余曲折があるのだろうか。