未来を拓く老化メカニズム研究

日本ほどではないにせよ、軒並み人口の高齢化が進むヨーロッパ諸国。2030年時点での65歳以上の人口の割合は、ドイツとイタリアを筆頭格に、ほとんどの国で20%台に達することが予測されている。そこで、医学や生理学の観点から注目されているのが老化のメカニズム。5月20日付『ル・ソワール』紙は、欧州委員会からの助成を受けて進められたこの分野の研究概要について報じている(Les clés pour une douce vieillesse. Le Soir, 2010.5.20, p.27.)。
EUの第7次研究技術開発枠組み計画の下で実施されたのは、その名も「ホワイウィエイジ(Whyweage)」というプログラム。事務局をベルギーのナミュール大学に置き、老化に関する基礎研究が進むべき今後15年間の工程表を描くことを目的として、200人以上の研究者の協力を得つつ検討を行った。現在は、欧州委員会に提出する成果概要のとりまとめにこぎつけたところである。
老化メカニズムの研究においては、相互に関連してはいるものの、いくつかのポイント、達成度の目印となるような目標が挙げられる。

  • 老化の進行を計量的に評価できるような生体指標(バイオマーカー)の発見。血液中のなんらかの指標を計測することで、その人の身体的な老化度を判定できるようになるか。
  • 動脈硬化の仕組みの詳細な検討とその防止法の発見。硬化しにくい動脈を調べることで、他の血管にも応用できないかどうか研究。
  • テロメア(染色体の末端部にある構造)の短小化現象の解明。テロメア細胞分裂により短くなるにつれて細胞老化が進むと言われているが、これを阻止、抑制する手段があり得るか。
  • 活性酸素が過剰発生することで酸化ストレスを生じ、遺伝子の傷害を生み出すメカニズムとそれを抑止する方策の探究。
  • 加齢による免疫老化、ワクチン効率の低下の原因に関する研究。
  • 筋の加齢による変化の仕組みの解明。クロマチン(細胞内のDNAとタンパク質の複合体)の作用が重要な役割を果たしていると考えられているが、詳細はまだ不明な点が多いのが現状。

当プログラムでは、こうした諸課題の相互連関や検討概況、さらに今後の研究の進め方などを明確化することに主眼が置かれ、その範囲で一定の結果を得たと言えるようだ。
プロジェクトのコーディネーターを務めるオリヴィエ・トゥッサン氏は、今回の研究の目的は人々の寿命を延ばすことにあるのではないと言い切る。そうではなく、人生の後半を老化や病で苦しんだり悩んだりせずに過ごせることこそが望むべき未来であるというのが、これら研究の基本テーマ。一連の検討を通じて、基礎研究と臨床の間の溝の深さといった問題点も明らかになってきており、作成された工程表どおりに研究が展開されるかどうかとともに、それが医療現場で実地に適用できる成果になるのかが、いずれ問われることになるだろう。
老化のメカニズムと聞くと、一般の人間はつい、アンチエイジングという流行りのフレーズ、そして数々のサプリメントや健康食品といった方向に連想が進んでしまいがち。難しい医学用語が飛び交う基礎研究の領域から、老化の抑止に向けた確かな方向性が遠からず見出されることに期待していよう。