ユーロ安は旅行客誘致にはプラス

ギリシャの財政危機をきっかけとして一気に進行したユーロ安。通貨の信認という点ではもちろん褒められた話ではない(ユーロのようなある種の実験通貨はなおさら)が、輸出産業などに相当の恩恵をもたらしていることは間違いない。観光関係も外国からの旅行客増加でメリットを得る分野の一つ。6月27日付の『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』の記事はそのあたりの現状を探っている(La baisse de l’euro dope le tourisme. Le Journal du Dimanche, 2010.6.27, p.14.)。
フランスの観光関連の業界で最近注目されているのは、アメリカ人はもとより、ブラジル、中国、インドなどの富裕層が通貨安を利用してヨーロッパ旅行し、高級ブランド品などを大量に購入していく現象。ワールドカップ南アフリカ大会に絡め、経由地としてフランスを訪れるメキシコ人やアルゼンチン人もいるという。パリ9区、オスマン大通りのプランタンでは、観光バスで乗り付けて宝石やアクセサリーを買う中国人や韓国人が目立つようになり、店側もこれに対応するため、ショッピングアドバイザーとしてフランス出身の中国人を新たに採用した。ピエール・プラレイ店長は、「アジアからのお客様の購入額は1人当たり1,000ユーロほどに達しています。これは湾岸諸国からの方々(註:石油大富豪のこと)の7,000ユーロには及ばないものの、相当な額と言えます」と語っている。
パリの東郊20キロ、ユーロディズニーランドの近くにあるアウトレットパーク、ヴァレー・ヴィラージュでも、外国人客の旺盛な購買欲が垣間見られる。オプショナルツアーで立ち寄るといった形の来客が増加しており、セリーヌバカラなど90のショップを集めたこのショッピングセンターの客数は、今年5月には前年同月比78%も増加したという。施設側でも、ショッピングアドバイザーのネット予約といったサービスを導入したりして、ますますの集客に力を入れているところ。
今後の大きな課題は、ヨーロッパ諸国間での観光客の争奪にどう立ち向かうかということ。フランスは観光面で、すでにスペインやイタリアの後塵を拝している感が強い。ユーロ安という外生的なチャンスをきっかけにして、フランス観光開発機構(アトゥー・フランス)では来訪旅行客増大のための戦略プランを打ち出した。現状を踏まえ、ブラジル、ロシア、インド、中国のシニア層や中間層をメインターゲットとすること、旅行者にわかりやすい標識・サインづくり、グリーンツーリズムの開拓などを進めることなどがその主な内容だ(日本はターゲットに含まれていない。観光客はそれなりにいるとは思うが、他国と比べて今後の伸びがそれほど期待できないからか)。
ちなみに、昨年9月にホテル格付け制度が改訂され、ホテルに5つ星というカテゴリーが新設されたことが、観光誘致上は一つの売りになっているようだ。ニース・ホテル業組合長のミシェル・チャン氏は、「この地域も多数の5つ星ホテルを擁することになり、その点が国外では非常に評価されているようです」と説明している。5つ星となるとラグジュアリー感がずいぶん違うということだろう、気分の問題ではあるけれど。
なお、フランス人の方に目を移すと、48%が国内でこの夏の休暇を過ごすという最近の調査結果が出ている。ユーロ安がフランス人の外国旅行には当然マイナスに作用することが一因であり、その他アイスランド火山噴火によって空のダイヤがマヒしたことで、長距離移動に少々嫌気がさしているという面もあるらしい。旅行先の予定についても費用の切り詰め傾向が強く、期間の短縮、(ホテルを避けて)親戚や知人宅での滞在、格安チケットの活用などが従来より進みそうな雲行き。豪勢なフランス旅行を楽しむ外国客に比べると、はるかにつつましい夏の日々になるのだろう。改めて、為替レートの変動はずいぶん因果なものではある。