内相の見る若者騒乱

不況や貧困といった社会環境を遠因としたフランスの若者騒乱の波はとどまるところを知らない。パリ発の日本語フリーペーパー『OVNI』紙は時事解説コラムで校内暴力を取り上げ(6月1日号)、教師への暴力や生徒間のいじめなどが傷害事件に至るケースの増加などを伝えている。さて、過激な青年非行に対して、政府はどのように対処しようとしているのか。ここでは7月21日付の『ル・フィガロ』紙がブリス・オルトフー内務大臣に対して行ったインタビューの内容を見てみることにする(Brice Hortefeux: . Le Figaro, 2010.7.21, p.8.)。
警察を所管する内相であるから、治安の維持、警察力の行使という立場からの発言になるのは当然としても、オルトフー氏の主張はかなりハードなもの。会見の内容は概ね、最近起きた若者と警官隊との激しい衝突、そして治安維持のために近年導入されている方策一般の2点に及んでいるが、どちらについても予想される反論を寄せつけず、政府の対応を強く正当化している。
インタビューが実施されたのは、騒乱のさなか若者側で死者が出た2つの事件の直後。1件はフランス中央部、ロワール−エ−シェール県のサンテニャン町で、警察が設けたバリケードを突破した若者の1人が警官の発砲によって死亡したというもの。またもう1件は、グルノーブルのカジノを襲い逃走していた犯人が、やはり警官の銃に撃たれて亡くなった事案である。
死者を出したことでこの2件は警官隊の「失敗」ということになるのでは、という『ル・フィガロ』紙の問いに、内相は強く反論している。曰く、グルノーブルの死者はこれまで3回も有罪判決を受けている暴徒であり、この日のカジノ襲撃時には短機関銃を所持していた、サンテニャンの若者も20数件の犯罪裁判歴を数える極悪ぶりであって、どちらの場合も警察は武器をもって反撃するよりすべがなかったのだと。そして、「私は警官隊(のそれぞれの事件に際する行動)を断固として支持するものです」と宣言する。
治安を確保するための施策に関しては、オルトフー氏は主に野党である社会党の政治家の発言や態度を批判しつつ、政府の対応を説明する。同氏によれば、社会党は青年騒乱と治安について、議論すべきというばかりで具体的な行動の必要性に言及しないし、社会党市長のもとでは治安を良くするためのなんらの方策も実行に移されない。一方で政府は、治安を守る上で必要な事項を規定する数々の法改正を実施し、各県知事に、県内3万人以上の人口を持つ都市で治安維持のための諸施策がどのように実施されているか、報告を義務付ける方針である。これまでの対策によって、1年前には増加傾向にあった犯罪件数が現在減少に転じているというのが、内相の強固な主張をなしている。
防犯カメラの設置も、オルトフー氏が強く支持し、推進する治安確保策の一つ。内務省の所管組織であるビデオ防犯全国協議会会長で犯罪学専攻のアラン・バウエル氏によれば、「のべつまくなし」にカメラが設置され、防犯映像過多状態に陥っている(とされる)ロンドンと違い、フランスでは目的が明確かつ有効性が確実な場所にのみ重点的にカメラが置かれる。現在までに国内280の市町村で設置が実施されており、内務省管理総局の報告書によれば、設置地域では未設置地域と比べて犯罪の減少率が2倍になったと言われる。
というわけで、はじめに書いた通り、今回は内務大臣への記者会見に基づく記事をベースにしたので、あくまで内務省、政府から見た青少年問題へのアプローチという内容になっている。ただ、当座の治安対策が急務なこともわかるとして、やはりこの問題については、より構造的な理解も必要ではあるだろう。『OVNI』紙が書いている「家庭(貧困、両親の離別、親の失業、家庭内暴力)と地域のゲットー化(郊外の低家賃住宅地区での暴力とドラッグディーラーの定着)という二重の恵まれない社会環境」という青年非行の背景をいかに捉え、考えるか。容易に解消する問題ではあり得ない。