電子書籍、普及への道まだ遠く

今年は何やら「電子書籍元年」という言葉があちこちから聞こえる。ここ20年ぐらい、本が電子媒体に移行しそうだという話は何回か出て消えたという実績もあるので、にわかに信用し難いという気持ちもあるのだが、電子書籍なるものの内実はともあれ、ビジネス的に多少注目すべき対象になっているところまでは確かといっていいだろう(それだけ出版業界の不況がひどいから、という背景も大いにあり)。トップランナーは勿論アメリカ、一方日本はケータイに偏倚した発達を遂げているという状況で、さてフランスはどうか。7月21日付『ル・フィガロ』紙が簡単なまとめをしているのでこれを見てみる(Démarrage du livre numérique en France. Le Figaro, 2010.7.21, p.28.)。
フランスでは秋のはじまり(学校暦でいう新年度の開始時期)が出版界の最も活気づく季節。イル−ド−フランス図書・出版物モニタセンターでは、今年のこの時期に先駆けて、電子書籍の出版・販売状況に関する調査結果を発表することにした。上記のような世界的な動きがあるさなかでもあり、全国的な動向を分析する今回の調査には幅広く関心が集まった。
ところが、実際に調査を行ったマティアス・ダヴァル氏とレミ・ドゥインヌ氏によれば、フランスにおける(現時点での)電子書籍の供給は非常にか細いと言わざるを得ないとのこと。電子媒体による出版点数は、冊子体での年間総出版点数である6万ないし7万点の約10分の1に過ぎず、出版界の全売上高に対する電子書籍の割合に至っては2.4%にしかならない。最近のベストセラー(マンガを除く)150点で見ても、電子版があるのは20%にとどまるそうだ。
実はこの調査の面白い(変な)ところは、電子版がある作品を数える際に海賊版も計算に含めていること。「マルク・レヴィ、フレデリック・ベグベデール、カテリーヌ・パンコール、マキシム・シャッタムの作品には、正規版と海賊版電子書籍が両方あり」などといった結果が示されている。今のところ海賊版を作るにもスキャンに手間がかかるので、それほど点数はないけれど、いずれEブックの類が普及しだすと、その暗号を解読して海賊版を作成する輩が増えるのではないかというのが、モニタセンターの見立て(そんなことをわざわざ見立てなくてもよいように思えるが?)。
調査によれば、フランスにおける最大の電子書籍販売サイトは、大規模書籍・CDチェーンであるフナックが運営するもの。2位が出版社ラルマッタンのサイトで、3位以下に電子書籍専門業者が入っている。このうちフナックのサイトからは、約4万冊の既刊電子書籍がダウンロード可能となっているが、2009年中に実際にダウンロードされたのはトータルで6万冊に過ぎないという。昨年の結果なので、ブーム到来?の今年はもう少しましな数字が出るとは思うものの、米国と比べてその非普及ぶりは言うまでもない。
なお、電子書籍普及に向けた課題として挙げられているのが価格の問題。電子書籍の平均価格は12.54ユーロで、普通の本の15.31ユーロに比べれば多少は安い(18%)と言えても、消費者の選択を大きく電子版に振り向けるには価格差が小さ過ぎるという指摘。値段についての議論があまりないように思える日本から見ると興味深い論点だ。