コミュニティサイクル運営に暗雲か

パリでレンタサイクルのブームが起きているという報道が日本でされたのは、主に昨年だったか(手元にあるのは「パリの風景を変えたコミュニティサイクル『ヴェリブ』大解剖」『週刊ダイヤモンド』2009年9月26日号)。2007年に登場したセルフサービスのレンタサイクル「ヴェリブ」は利用者を順調に伸ばしている、市内1,500ものステーションで利用できるといった内容で、大都市でのエコな移動手段実験として注目する記事が多かった。ところが、そうはうまくは運ばないというか、現実は甘くないというか。9月19日付の『ル・パリジャン』紙は、実際のヴェリブの普及動向は2008年以降横ばいか、むしろ若干落ち込み気味ではないかとしている(Le coup de pompe de Vélib’. Le Parisien, 2010.9.19, p.14.)。
ドラノエ市長提唱の交通対策の一環たるヴェリブは、パリ市が大手広告会社JCドゥコーとのパートナーシップを生かして運営。スタート当初は確かに市民の関心も高く、1年後には長期契約者が20万人に達した。ところがそれ以後成長はストップ。昨年は郊外にステーションを新規展開するなど拡張策を取ったにもかかわらず、契約者は下げ止まらず、最新の時点で16万5千人まで減少している。決定的な低落とは言わないまでも、伸び悩みは明らかだろう。パリ市役所のアニク・ルプティ交通担当助役も、「はじめは好奇心からの契約が相当ありましたが、更新はされなかったようです」と状況を認める。
ヴェリブの難点の一つは、自転車の故障や破損が多いこと。予想されたとは言え悪質な破壊行為が目立ち、これまでに1万6,000台が故意に壊されているという。もう一つ、より深刻な問題点と思えるのは、各ステーションで駐輪(在庫)状況がばらついてしまいがちなこと。すぐ自転車が出払ってしまうステーションがある一方で、逆に満車状態が続いて駐輪できないステーションも多い。パリのど真ん中、シャトレ近くに住むカトリーヌ嬢は、新聞の取材に答えて、「うちの周りのステーションはいつ見ても満車で、ヴェリブを使っても停めるところが全然ないんです」と説明する。結局彼女は自転車を買うことにしたが、ネットの掲示板を見て中古品を購入したら値段が10ユーロ。ヴェリブの年間契約料(29ユーロ)の約3分の1で済むという冗談のようなことになったそうな。
もちろん運営者側も、車体等の整備改善、バスやトラックを使った自転車の移動・回収体制の強化、契約更新手続きの簡略化などの対応を進め、さらにヴェリブ利用者によるミニツーリングといった新企画も打ち出して、コミュニティサイクルとしての盛り返しを図っている。JCドゥコーでは、最近になって長期契約者は増勢に転じ、また一日券(1ユーロ)を買う人も増えてきていると主張しているが、果たして再び順調な伸びが続くようになるのだろうか。
いずれにしても、日本での多くの報道で見られたハッピーな展開ばかりではないことは確か。上り下りの激しい道程を越えて、なお前進することができるか、ヴェリブの進路は今後ますます問われることになるだろう。