社会党出身閣僚が迎えた試練の党大会

スイスにおける連邦レベルの行政府の長は、連邦議会で選出される7名の参事が務めることになっており、与党である各政党から議席配分に合わせた人数の参事を出すことが慣例となっている。この9月22日、辞任する2名に代わる新たな参事が選ばれ、社会党(註:スイスのParti socialisteは、フランス語では明らかに「社会党」だが、ドイツ語上は「社会民主党」と訳せる党名が正式名称となっている。当ブログはフランス語に従い社会党の語を用いる)からはシモネッタ・ソマルガ氏が法務・警察担当参事に就任することになった。ところが、ベルン州出身の彼女、フランス語圏の社会党員の間では評判が芳しくないらしい。11月1日付の『ル・マタン』紙は、直前の土日にローザンヌで開催された党大会を取材し、ソマルガ女史の不人気の背景を探っている(Elle n’a pas brisé la glace. Le Matin, 2010.11.1, p.7.)。
彼女の演説は大会2日目に行われたのだが、その時間帯、ジュネーブ州やヴォー州(共にフランス語圏の主要州)からの代表団席は人がまばらだったという。ある者は「いや、(昼時だったので)ごはんを食べに行ってただけですよ」と言い訳したが、その表情はなにやら皮肉気。演説を聞いた党員からも「もっととんでもないことを言い出すかと思ってました」とか、「少し時間をかけて実績を見てみましょうかね」といった発言が飛び出す。自らの党が送り出している閣僚に対する態度としてあまりにも冷たすぎないか?
『ル・マタン』紙によれば、こうした背景には、社会党内部での地域ごとのスタンスの違いが存在する。ドイツ語圏は自分たちよりかなり右寄りで、市場原理に対して寛容、あるいは積極的ですらあるという認識は、ジュネーブローザンヌの党関係者にかなり根強い。社会党ヴォー州本部委員長のセスラ・アマレル氏などは、「ソマルガ氏が代表する勢力は、党の拠って立つべき基盤から遊離してしまっているのです」と、これまた極端なことを口にする。
こうした反応に対し、ソマルガ氏は「フランス語圏の社会党関係者と接した際の感触は、想定していたものよりずっと良好でした。私は彼らと協力しつつやっていきたいと心より願っています」と平静さを示す。そして「フランス語圏の同志と自分との間に断絶があってはなりません」と強調(まあそれはもっともだ)。しかし、党大会を取材した記者は、「ソマルガ氏が当地の社会党員の凍りついたような頑なな気持ちを溶かすことができたかどうか、それは確かではない」と評している。
新しい連邦法務・警察担当参事にとって当面最大の課題は、11月28日の国民投票。スイス国民党(昨年可決された「ミナレットの新規建設禁止案」国民投票を発議した右派政党)が、犯罪をおかした外国人に強制退去処分を課す案を提出しており、これに対して政府側も、条件を相当厳格化した(対象となる犯罪を重大・凶悪なものに限るなど)上ではあるが、同様に退去を求める提案を出している。ソマルガ氏は担当相として、当然後者を推進すべき立場にあり、党大会でも政府案に義があることを強く主張したが、社会党は国民党の提案はもちろん、政府の提案にも反対する立場を取ることに決定。まあこうした結果になることは彼女も織り込み済みで、「政府の立場を擁護するのが連邦参事の職務であり、このようなこと(政府と党の見解が食い違うこと)は今後も繰り返されるでしょう」と述べている。連立政権が恒常化しているスイスでは珍しくない事態なのだろうが、当事者にとってあまり心地良い状況ではないに違いない。演説に対する反応といい、ソマルガ氏にとって党大会が試練の場だったことは確か。さて、次なるは月末に迫る国民投票の結果に注目ということか。