OECD学力調査への各国の反応(2)

OECDの学力到達度調査(PISA)はどのように受け止められているか、フランスに続いて今日はスイス篇。12月8日付の大衆紙『ル・マタン』の報道によれば、この国では成績水準それ自体が問題になるというより、もっと政治的な駆け引きの材料として調査結果が使われているように見える(L’école bonne élève: L’UDC exige plus. Le Matin, 2010.12.8, p.6.)が、さてどのような状況なのだろうか。
スイスは今回調査において、数学で3位グループにつける優秀な成績を残したほか、科学と読解でもまずまず上位に入った(13位から15位程度)。また、読解力が弱い生徒の割合が、2000年の調査と比べて3.6ポイント下がるなど、この10年の実績という観点でも一定の向上を見せている。この結果にまず喜び、また自信を示したのは当然のことながら教育関係者。例えばフリブール州の公教育担当州参事であるイザベル・シャッソ氏は、「今回の調査によって、教育政策が実を結んできていることが明らかになりました」と宣言し、これまで取り組んできた施策が良い効果をもたらしているという見解を示している。
一方、これまで教育システムの現状を厳しく批判してきた右派政党、スイス国民党は、こうした結果を踏まえて批判の動きを緩めるかと思いきや、そんなことはないようだ。国民議会(下院)議員であるウルリッヒ・シュリュアー氏は「批判を止めるなんて全くありえません」ときっぱり。そして、「我々のプランはPISAの報告書に基づいているのではなく、教育システムに不満な教師や保護者の不安感に基づいているのです」と強く反論し(このあたりレトリックっぽいところがなくもないが)、学校における規律の強化、生徒の成績評価制度の再開などを引き続き求めていく姿勢を取っている。
またスイス国民党は(ミナレット新規建造を禁止する国民投票を発議した経緯からも推測されるように)、移民の存在を考慮する多文化的要素を公教育から現在よりも削減すること、また統合的学級編成(学力や能力の異なる生徒を隔てなく同じ学級に組み込む方式)を見直すこと(すなわち、それによって学力の低い移民出身の生徒を別クラスに隔離すること)などを目指している。フランス語圏スイス教職員組合のジャン−マルク・アレール氏はこうした考え方に反論し、「PISAの結果に基づけば、学校が外国出身の生徒のせいで良好に運営できない状況になっているというポピュリスト的なテーゼは否定される」と断言するが、国民党がこれまでの主張を撤回する様子は全くなく、今後も教育政策をめぐる政治的な争いは激しく続くことになりそうだ。
まあ、もちろんスイスでも、PISAでの成績をどう認識するかという学力論議も行われてはいるのだろう。上記で紹介したのはあくまで大衆紙におけるPISAの扱われ方に過ぎないが、そのような問題構成もあるということで、とりあえずはご理解いただきたいところ。